小説の男女入れ替わり②【10作品】

今回は、小説の男女入れ替わりを10作品紹介していきます。
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もくじ
入れ替わったら、オレ様彼氏とエッチする運命でした!(ライフ⇔チェンジ Hしなくちゃダメなんです!!)
※成人指定はありませんが、同等の内容なのでご注意ください。
| 作品タイトル/著者 | 簡単なあらすじ | 収録書籍/ソフト |
| 『入れ替わったら、オレ様彼氏とエッチする運命でした!』 著者:青砥あか 絵:涼河マコト 『ライフ⇔チェンジ Hしなくちゃダメなんです!!』(※別タイトルの同内容) 著者:青砥あか 絵:ヤミ香 | 逆の身体で生まれるはずだったオカマとオナベが交通事故で入れ替わる。 | ●竹書房 蜜夢文庫 『入れ替わったら、オレ様彼氏とエッチする運命でした!』 ●パブリッシングリンク らぶドロップス 『ライフ⇔チェンジ Hしなくちゃダメなんです!!』 |
※本項目の画像は、全て上記作品からの出典です。
『入れ替わったら、オレ様彼氏とエッチする運命でした!』と『ライフ⇔チェンジ Hしなくちゃダメなんです!!』は、前者にだけイラストとあとがきがあるのが違いでした。

オネエのサラリーマン・藤原冬馬(27歳)は、交通事故に遭って俺っ娘のお嬢様・堂島アリス(22歳)と入れ替わってしまう。
神の使いの白狐によると、二人は生まれてくる際に魂が逆になってしまっていたらしい。
本来の身体に定着するためには月に一度、二人で行為をしなければならず…
↓ということで、ゲイでオネエでオカマの男性と、レズでアニキでオナベの女性が入れ替わり、ごく普通の?男女になります。
本来は逆の身体で生まれてくるはずだった…と、かなりややこしい設定ですが、入れ替わり的にはおいしい描写が多かったです。
基本的には元男性で現女性の精神が主人公ですが、元女性で現男性の視点の描写もありました。
「えっ、ええっ!?なんでっ!」
驚きに裏返った声が、暗い空間に木霊する。いつもより高くて丸みのある声で、一瞬可愛いと思ってしまったが、それどころではない。
(中略)
「私このままじゃ、まずいんじゃないの?」
両手で口元をおおい、肩をきゅっとすくめる。目に涙がにじんだ。
動揺しすぎて素がでてしまっている。一人称も「僕」ではなく、心の中だけで使っている「私」になっていた。
いつもは隠している女性っぽさだったが、この状況で男性らしく振る舞うなんて無理だ。でも、他人に見られる心配のない、魂の状態ならどうでもいい。
(中略)
まじまじと自分の両手の平を見下ろして、首を傾げた。
「え……なんかちがくない?」
細くて白い指に、丸みのある小さな手。私の理想そのものの手が目の前にあって、つい見惚れてしまう。私の本当の手は、こんなに可愛らしくない。
長くて、少し節くれだった指。けっして形は悪くないけれど、男らしい大きな手をしているはずだった。現に、倒れている私の手はいつもどおりの、可愛らしさの欠片もない手をしていて、嫌悪感に思わず顔をしかめる。私の手じゃなくて好きな男性の手だったら、撫でてもらいたいななんて思って、うっとりした目で見つめるのだろう。
これが自分の手だと思うと絶望感しかない。
↓冬馬として27年間過ごしてきた本来のアリスは、男性の身体に非常に嫌悪感があり、ずっと本物の女性を見ては羨ましいと思って妬む人生だったようです。
逆にアリスとして22年間過ごしてきた本来の冬馬は、性的対象の女性に近づける機会が多く、おいしい思いを多くしていたらしいですが…w
自慢じゃないが、二十七年間の童貞生活は伊達じゃない。自ら女性に触れるなんて事故でもないかぎりなかったし、根暗でおどおどした態度の私は、同級生の女子から気持ち悪がられていた。男子からだって、人畜無害だけど異質な存在として、いてもいないような扱いだった。イジメに合わなかったのが奇跡みたいなものだ。
大学生になってもその状況は続いていたし、私から女性に接近する気もなかった。彼女たちが性的な対象にならないからという理由ではない。私にとって女性という存在は、ずっと憧れであり嫉妬の対象だったからだ。近くで彼女たちを見て会話を聞いてるだけで、羨ましくて妬ましくて、男の体を持って生まれた自分がみじめになる。
「いや、俺は女子校で大好きな女に囲まれ、しかも十代の瑞々しい肌の女の下着姿や裸見放題な生活でパラダイスだった。スキンシップと称しておっぱいも揉み放題だったしな。あと、オヤジのことは嫌いだから、これで縁が切れてせいせいしている。あとはお前が問題なく運命の人さえ見つけられれば、俺の人生は充実したものになるだろう」
↓入れ替わり直後のやりとりが絵面を想像すると普通の入れ替わりものと違って、見た目は恐らく変ではなくて混乱してきます(汗)
客観的には、男性が女性に向かって「てめぇっ!俺の体でキモイポーズとってんじゃねえよ!」と言っているのが一番おかしいですw
「ああっ、ここどこだよっ?よく見えねえなぁ」
少しどすのきいた声に、緊張する。間違いなく私の声なのに、別人のものに聞こえる。
そもそも私は、こんな乱暴な言葉遣いじゃない。同僚の女性社員には社交辞令で可愛いと言われ、男性社員、特に中年以上の男性には眉をひそめられることもある、おどおどとした喋り方だ。陰で、オネエと言われ嘲笑されているのも知っている。
(中略)
「なんで俺が目の前にいるんだよ!?」
鼓膜を震わせるような大声に、「きゃんっ!」と悲鳴を上げ、両手をぎゅっと握りしめて目をつぶる。とたんに耳を引っぱられた。
「やんっ、痛いッ!」
「てめぇっ!俺の体でキモイポーズとってんじゃねえよ!ぶりっ子か?甘い声も出すな!」
「その体は、俺の元の体だ。で、この体はお前の体なんじゃないか?」
「えっ?ええっ?そ、そうなの?たしかにそれは私の体だけど……」
二人とも生まれてきた身体に違和感があり、入れ替わった状態の方が即しっくり来ているため、すぐに身体の名前で呼び合います。
↓もちろん、二人とも元に戻りたいとは思いません。
「お主ら、元に戻りたいと思っておるのか?そうは思っておらぬだろう」
内心を見透かされた私は目を丸くし、次に隣の誰かさんを見上げた。「お主ら」ということは、誰かさんも私と同じ思いなのだろうか。真剣な表情をした誰かさんと目が合った。
「やっぱお前……心は女か」
「うん。じゃあ、あなたも……?」
誰かさんは静かに頷き、「ああ、俺は男だ。正直、元の体になんて戻りたくない」とはっきりと宣言した。
「わ、私も……あなたがよければ、この体にずっといたい。女性になりたい!」
「お前、名前なんていうの?」
「え……あ、私は冬馬。藤原冬馬!」
「俺は堂島アリスだ。目が覚めたら、冬馬になるけどな」
アリスこと、冬馬くんがそう言って笑う。
私は目覚めたら、アリスになるんだ。なんて可愛い名前だろう。嬉しくて思わず笑うと、冬馬くんの手が伸びてきた。
「よろしくな、アリス!」
「うん……こちらこそ、よろしくね冬馬……くん。自分の名前を呼ぶなんて、なんか不思議」
神の使いの白狐・シロによると、本来の身体に定着するには、月に一回のセ○クスまたは一日一回のキスが必要らしい…
そして、完全に本来の身体に定着するには、決められた期間内に「運命の相手」を見つけてセ○クスするのが必須のようです。
二人とも別の相手を見つけようとしますが、お互いに好意を抱いてすれ違ってしまう…というストーリーです。
↓逆の身体で生まれてきたせいで、家庭環境も入れ替わっていたため、本来の自分として歩むはずだった人生とは真逆の人生を歩んでいるのが熱いですね。
冬馬として育った本来のアリスは貧乏な母子家庭で苦労して育ち、アリスとして育った本来の冬馬はお金持ちの家に生まれてお嬢様として育ったようです。
「ああ、母親は俺が幼い頃に亡くなってるんだ。父子家庭。で、俺は一人っ子だから、普段家には誰もいない。食事は基本的に外だから、住み込みや通いの家政婦もいない。ハウスキーピングの人には、掃除と洗濯だけしてもらってる」
「そうなんだ……えっと、変なこと聞いちゃってごめんなさい」
プライベートに立ち入ったのが申し訳なくてうつむくと、大きな手で髪をくしゃくしゃと混ぜるように頭を撫でられる。
「なに言ってんだよ。入れ替わったんだから、これはもうお前の境遇だぜ。変なこと聞くもなにもないだろ。むしろ積極的にお互いの個人情報を教え合わないとまずいだろ」
私も自分の通帳を箪笥からだしてきて、冬馬くんの前に置いた。そして奨学金の支払いや、最近、体を壊して仕事ができなくなった母に仕送りをしている事情も話した。うちは母子家庭で貧しく、堂島アリスの生活とは天と地ほどの差があることを懸命に言って聞かせた。

「アリスの身体」は入社直前だったため、アリス(冬馬として育った人物)は仕事の心配はとりあえず無く、受付嬢として喜んで働きます。
冬馬(アリスとして育った人物)は、アリス(冬馬として育った人物)が別人と見間違えるほどイケメンに。
女の子として育てられた冬馬(アリスとして育った人物)は、女心を理解して気遣いもできるという完璧超人です。

元の自分の身体との行為に拒否感のあるアリス(冬馬として育った人物)に対し、冬馬(アリスとして育った人物)は「もし、相手が見つからなかったら、俺と結婚しよう」と男らしくプロポーズ。
心を開いたアリス(冬馬として育った人物)は、冬馬(アリスとして育った人物)と儀式と言う名のセ○クスをします。
↓二人とも性格が本来の身体に馴染んでいるため、見た目はほとんど普通の男女のセ○クスという感じですが、描写は所々おいしかったです。
儀式としてのセ○クス描写は何度かありました。
女性や男性と肉体関係になった経験はなかったが、自慰ぐらいはしたことがある。自分の体に生えていた男性のそれは、おぞましくて見るのもさわるの嫌だったけれど男の体は時として抑えられない性衝動に襲われる。自分の意志とは関係なく立ってしまったそれを、鎮めるために何度か触れたことがあった。
あの時、絶頂を迎えた後は満足して脱力し、眠くなるだけだった。こんなふうに、体が前よりも感じるなんてなかった。他人に触れられているから違うのかもしれない。それとも、これが女体で感じる快感なのだろうか。
私はひっきりなしに押し寄せてくる快感に、喘ぎ、むせび泣いた。冬馬くんのもので中を強くかき回されると、すぐにいってしまう。何度も襲ってくる感覚に、頭がおかしくなってしまいそうだった。
「こんな、だめぇ……はあぁンッ、やぁ、変になっちゃう……ッ」
「変になれよ……俺も、お前に溺れそう」
耳元で、「お前の体、すごい気持ちいい」と艶めいた溜め息とともに冬馬くんがこぼす。
本来の身体に戻れて二人とも幸せばかり…というわけではなく、当然今まで違う身体で生きてきた分の人間関係もあります。
↓「冬馬の母親」が病気で倒れ、アリス(冬馬として育った人物)がもう家族ではないから病院で付き添えない…となったシーンが最高でした。
冬馬(アリスとして育った人物)の方も、自分のせいで幼少期に「アリスの母親」が亡くなってしまったことに罪悪感を持ち続けているようです。
「お母様の病状について、こちらでご説明いたします。あっ……親族の方以外はご遠慮ください」
冬馬くんの後について当然のように診察室へ入ろうとしていた私は、ドアの前で医師に手で止められ声を荒げそうになった。
「えっ……でも、私は……!」
息子ですと言いそうになり、すんでのところで言葉を飲みこむ。
今の私は、母にとって赤の他人。こういう場に立ち会えない人間になってしまったのだ。
↓アリス(冬馬として育った人物)の生理ネタもあります。とにかく倒錯感が強すぎます。
「うそ……っ、なにこれ?」
怪我をした覚えはないのに、ショーツから太腿をおおうストッキングが赤く染まっている。とっさにペーパータオルで拭くが、血がストッキングに広がってよけいに汚れてしまう。しかも、さらにしたたってきた血が白いワンピースに落ちた。
(中略)
「と、冬馬くんっ……ふえっ、えっうえっ……血がっ、脚から血がっ……たすけてえぇ」
「え?血?泣いてんのか?助けにいくから、そこどこだ?」
そうか……私、生理になったのか……。
なんとも言えない気分に、しばらく立ち尽くしていた。男の時、なってみたいけど面倒そうだなと思っていた生理だ。いざなってみると、感動というより衝撃だった。そもそも、デートの最中になるなんてタイミングが悪すぎる。
「おーい、でたのか?それの使い方わからなかったら教えるぞ」
(中略)
「あ……血はすぐに水洗いすると染みになんないからさ。つか、気にすんな。生理の血とか見慣れてるし、汚れた下着洗うのもよくやってたから。お前の経血は俺のものみたいなもんだから」
「ちょ、ちょっと待って……あの、生理って月一回あるものだよね?先月はなにもなかったんだけど……」
冬馬くんが「そんな正確に絶対くるもんじゃねーよ」と言った。
「女の体は複雑だからな。ストレスかかったり、急に痩せたりすると簡単に生理なんて止まるから。先月なんていろいろあったんだから、体が驚いて生理が止まってても不思議じゃねえよ」
「そうなんだ……」
話には聞いたことがあったけど、体感するのは初めてなので、冬馬くんの言葉に頷くしかできなかった。それにしても、今は男性の冬馬くんに生理について聞かされるのは、なんとも妙な気分だ。
「あと俺、生理不順で、数か月こないのとか普通だったから」
「え?それ大丈夫なの?」
生理不順というのも聞いたことはあるけれど、数ヵ月こないのはまずいんじゃないだろうか。硬い表情で冬馬くんを見返すと、へらへら笑いながら言い放った。
「医者にも言われたけど、食生活が悪いんだよな。外食とカップメンしか食べてないから。だけど生理なんて面倒だし、こないほうがよかったから、生活改善しなかったんだよなー」
とんでもない発言に、私は青ざめて立ち上がった。もうお腹の痛みはなくなっていた。
↓アリス(冬馬として育った人物)は、冬馬(アリスとして育った人物)の話を聞いて、健康に気をつかっていた元の「冬馬の身体」がボロボロにされると怒ります。
この辺りも、元の自分の身体の所有権や今までの人生が全て相手のものになるという入れ替わりらしさが出ていて最高でした。
貧乏一人暮らしの私は、昔から健康にだけは気を配っていた。母にも、「うちは貧乏だから、体だけは壊さないように。健康ならお金がなくてもなんとかなるから」と言われて育った。その健康の基礎となる食事はとても大切だ。料理好きや節約のためという以上に健康を考えて自炊をしてきた。ひょろガリで体力もないほうだったけれど、風邪さえもめったにひかずに今までやってきたのだ。
それに今は、仕事で無理をして体を壊した母に仕送りをしている。私が……今は冬馬くんが健康を害して倒れるわけにはいかないのだ。
それなのに、彼は私の今までの努力を無にしようとしている。生理が数ヵ月もこない食生活って、私が今入っているこの体はどれだけ不健康だったのか。想像するだに恐ろしい。
押し切られるかたちで毎週月曜日、仕事帰りにアリスの家――もとは自分の家だった堂島邸に、このお惣菜を取りにいくことになってしまった。俺の食生活と健康を案じた彼女の剣幕はすごく、なぜか逆らえなかった。彼女の母親――今は俺の母である藤原雪子さんに仕送りをするため、倒れられたら困ると心配しているのだろう。

↓入れ替わったもの同士は「運命の相手」にはなれず、アリス(冬馬として育った人物)は冬馬だった頃の友人の広瀬、冬馬(アリスとして育った人物)はアリスだった頃の友人の綾乃やアリスの職場の中山先輩と関係を深めようとします。
綾乃が入れ替わりに感づいて、冬馬(アリスとして育った人物)に「アリスちゃん」と呼んで鎌をかけるところが最高でした。
俺は綾乃が好きだ。まず容姿や雰囲気、話し方などが昔から好みだった。女友達としての付き合いがあったので、性格がけっしていいほうではないのも知っているが、男を惑わすような曖昧な態度を取るところにも惚れていた。
もとは女として暮らしてきたせいなのだろうか。女性特有のいやらしい面や、ずるさを可愛いとさえ思える。性格が悪いと評されるそれらは、彼女たちが生きていくための処世術みたいなものだと理解しているからかもしれない。婚約者がいることを黙って、俺とデートを重ねる綾乃にだって腹も立たない。結婚を前にして、デートをしたいと思わせる男なのだと、俺の自尊心は大いに満たされている。
昔から綾乃は、どっちつかずの態度を見せて、好意を寄せてくる相手の気持ちを翻弄する。そうやって、チャンスがあるように見せかけて、どんどん泥沼へと落としていく。相手がそれをひどいとなじれば、「そんなつもりではなかったのに……勘違いさせてしまって、ごめんなさいね」なんて心にもないことを言うのだ。
そのずるさを知っていながら、高校生の時に俺も彼女に惚れた口だった。女同士だったが、綾乃は俺の恋心に気づいていた。自己愛の強い彼女は、自分を愛する相手にとても敏感だ。そして残酷でもあった。
アリス(冬馬として育った人物)は人のことを信じやすく、大丈夫だろうと広瀬の家にホイホイとついて行き、襲われそうになったところで、時間切れで二人は元に戻ります。
解決後にセ○クスしてすぐにまた入れ替わりますが…
アリス(冬馬として育った人物)と「冬馬」の母親との絡みや、「アリス」と仲の悪い「アリス」の父親との絡みも良かったです。
そして、「アリス」の父親の再婚予定の優子に、アリス(冬馬として育った人物)が殺されそうになったところでまた元に戻ります。
↓元に戻った状態の方が本来の入れ替わりものっぽくて混乱します(笑)
私は慌てて、優子さんから冬馬くんを引きはがした。暴れられたものの、アリスの体は力が弱くて、今の私――冬馬くんの力にはまったくかなわなかった。これだけ力の差があることにちょっと驚いた。
↓冬馬の身体では泣けない冬馬(アリスとして育った人物)のために、アリスの身体で泣かせてあげるアリス(冬馬として育った人物)のシーンが最高でした。
既に二人とも、入れ替わった本来の身体が自分自身の身体だと認識している様子。
「女の子は涙腺弱いもんだし。その体、私のせいでよけいに涙腺弱くなっちゃってるから、我慢するのけっこう大変だと思うよ」
「怒ってねえよ」と言ってアリスの頭をぽんぽんと撫でると、眉尻の下がりきった顔で上目遣いをする。問題は、それが俺のものになっていた冬馬の顔だってことだ。うろたえるアリスの顔だったら好みなのに。自分のこんな情けない顔を見るはめになって、ちょっとうんざりする。

で、元に戻った状態でセ○クス(前戯まで)。こちらの方が男女入れ替わりっぽさがあります(笑)
↓男性の身体に戻ったアリス(冬馬として育った人物)が、女性の身体に戻った冬馬(アリスとして育った人物)に触って興奮してしまうシーンがおいしいです。
なのに冬馬くんは怒らないで、なぜか私の胸の中に飛びこんできた。
柔らかい塊の衝撃にびっくりして、私の怒りはぱぁんっと弾けて消えた。
女の子って、こんなに柔らかいんだ……なんて、まるで男性向け創作物のテンプレモノローグみたいなことを思っていた。そんな自分にまたびっくりだ。
(中略)
男性が女性に触れたがる気持ちがすごくわかった。女性に性的な興味なんてないけど、これなら私だって女の子に触りたくなる。ぎゅっと抱いたら、柔らかいクッションを抱きしめてるような安心感があって、癒されちゃうんだろうな。
女体ってとんでもない飛び道具を隠し持ってたんだ……。
女になれて本当によかったと実感すると同時に、もう二度と男に戻りたくないと思った。女体のポテンシャルの高さといったらない。私の女心さえ虜にするんだから。
↓面白がって男性の身体に戻ったアリス(冬馬として育った人物)を襲う女性の身体に戻った冬馬(アリスとして育った人物)が最高。
もう女体化か男体化かわかりませんが、とにかく倒錯感は増し増しです。
前戯途中でまた入れ替わった二人は、感覚が混線して二人分の快感が…
ズボンから飛びだしたそれを、冬馬くん――もといアリスの手が、慣れた感じにしごく。冬馬くんを取り押さえようと思ったのに、ふにゃんと肘から力が抜けて、ベッドに仰向けに倒れてしまう。今なら、私の方が圧倒的に力で優っているというのに、的確に感じる場所を責められて抵抗できない。
「ここ、感じるだろ」
熱っぽい声が聞こえて、指が上下に動く。背筋がぞくぞくして、腰から力が抜ける。昔、自分で慰めたのとは比べ物にならない快感に眩暈がする。
「んっ……だめぇ……っ」
「前から思ってたんだけどさ、この状態で儀式をしたら、どこで入れ替わるんだろうな?やっぱキスするまで入れ替わらないのかな?それとも、挿入したら入れ替わんのかな?」
(中略)
私だって男体のままセックスするなんて、嫌悪感はなくても抵抗がある。もう、それぐらい自分が女性の体に慣れてしまったから、違和感があった。
「……こうされると、気持ちいいだろ?」
「やっ……あぁ、ンッ……だめっ、だめだってば……とうまくんっ」
くわえたまましゃべらないでほしい。くすぐったさと快感が同時にきて、なにがなんだかわからない。
ていうか、私の体でなんてことするの。まだ口で……フェラなんてした経験なかったのにひどい。私が汚される。でも、私を汚してる体は冬馬くんで、中身は私。汚しているのか、汚されてるのか。ややこしすぎる!
↓この後は、冬馬(アリスとして育った人物)がアリスの身体を借りて綾乃の結婚式に出席。
生まれ育った身体に戻ることを「身体を借りる」と表現しているのが好きですね。
アリスの身体に戻った冬馬(アリスとして育った人物)が、綾乃と身体的に女の子同士のキスをして、気持ち悪がるシーンも良かったです。
「相変わらず、変なところで律儀ね。二次会は参加しないの?」
「めんどくせえ。この体でいんのも落ち着かねえし」
「そう、残念だわ。せっかく可愛いのに」
「ちょっ……やめろっ!」
思わず綾乃を突き飛ばし、乱暴に唇を拭っていた。彼女と口づけたのは初めてじゃない。肉体関係はまだだったが、冬馬の姿で付き合っている時にしている。
女の姿だからだろうか?すごく、気持ちが悪かった。男の時に、そんなふうに感じたことはなかったのに……。彼女の香水や口紅の味、触れた唇の柔らかさもすべてが、不愉快にしか感じなかった。女子高校生の頃、俺の片思いではなく両想いだったとわかっても嬉しいとも思わない。
両想いの二人はすれ違いで色々ありましたが、最後には晴れてカップルになり、結婚式を挙げます。
無事に本来の身体にも定着し、性別の合わない身体に戻ることはなくなりましたが…元に戻らない代償として、本人たちと周囲の記憶が無くなって改ざんされることに…
ということで、本来生まれるべきだった身体に一から生まれ直し、アリスとして育った冬馬は冬馬の身体で、冬馬として育ったアリスはアリスの身体で成長。
本来の身体に転生して成長した二人が再会する…というエンディングでした。
入れ替わった事実を二人は覚えていないようなので判断は非常に迷いますが、一応元に戻らないエンド?だと思います。
キリサキ
※この項目には物語に関する重大なネタバレが含まれています。
| 作品タイトル/著者 | 簡単なあらすじ | 収録書籍/ソフト |
| 『キリサキ』 著者:田代裕彦 | 死んだ主人公が女子高生の身体に入る。 | 富士見書房 富士見ミステリー文庫 『キリサキ』 |
※本項目の画像は、全て上記作品からの出典です。
気がついたら死んでいた主人公は、あの世で出会った案内人・ナヴィの力で女子高生の霧崎いづみとして生き返った。
いづみとして生活する主人公だが、世間を騒がせる連続殺人鬼「キリサキ」の噂を耳にする。
生前に「キリサキ」だった主人公は、現在の「キリサキ」を名乗る犯人を探すことに。
主人公は一年前に死んだ姉の真相を追っていたので、いづみとして生き返ることを決意します。
主人公は死んでいますが、死ぬ直前の記憶はありません。
↓病院のベッドで、いづみの身体で目覚める主人公のシーン。お約束でおいしいです。
俺は若干の苦労を伴いながらも、上半身を起こすと自分の体を見下ろしてみる。
随分と腕が細い。しげしげと眺め見たその腕は、自分の記憶にある俺の腕よりも、だいぶ細かった。こんなに衰弱するほど長い入院生活を送っていたということなのだろうか?
もっと、外の景色をじっくり見ようとして、俺はようやく先程感じた、根本的な違和感の正体に気付いた。
今度こそ、はっきりと俺の喉が震え、口から声が出た。
「――俺は、誰だ!?」
もう少し体が利いたのなら、俺は窓ガラスに飛びついて、まじまじと見直したことだろう。
そこに映る自分の姿は、俺にはまったく覚えのない女だった。
信じられず、俺は頬や額を触る。窓ガラスに映る姿も、驚いたままの表情を浮かべながら同じ行動をとった。
ボブとショートボブの中間のような、中途半端で地味な髪形。痩せこけてはいるものの、限りなく円形に近い、丸顔。小柄で痩せぎすの体。服の上からでは、わずかに確認できる程度の胸のふくらみ。
これはもう、間違いなく、完膚なきまでに、俺ではない。
先程、俺の口から出た声も、カン高く、俺の声ではなかった。

主人公は、自殺未遂して入院中のいづみの身体に入ってしまいました。
いづみにはひとみという姉がいて、ひとみはいづみ(中身は主人公)のことを大変心配してくれます。
↓ナヴィのセリフが入れ替わり的に結構好きですね(笑)
主人公が元の身体に戻るためには、元の自分の身体を殺さないといけないようです。
『おや?その体が気に入らないのかい?どうせなのだから、この際、その可愛らしい体で第二の人生をエンジョイしてみてはどうだね?』
「黙れ。あの世の住人が人生をエンジョイとか言うな」

↓主人公がいづみの身体での生活に困るシーン。
男子トイレに間違えて入ってしまったり、女性用下着や化粧品に困惑したり、スカートからパンツが見えそうになったりと、おいしいです。
それに下着、俺はそーゆーシュミの人ではないので、今まで女性用下着なんぞを身につけたことはなかったわけだが、この体を締めつけるような圧迫感はどうにかならんものだろうか。慣れなのか、我慢しているのか、それとも単に俺がつけているもののサイズが合っていないだけなのか、とにかく俺は世の下着をつけている女性(つまり、ほぼすべての女)を無条件で尊敬しそうになったくらいだ。
いづみは、俺の印象からすれば平均的な女子高生よりも地味な方だと思うが、それでもいくつかのメイク道具を持っていた。入院中に姉のひとみが気を利かせて、いつも使っているものをわざわざ持ってきたのだ。それは、メイク道具と言うにはおこがましいような、基礎化粧品の類なのだろうとは思う。が、それですら俺にとっては未知の領域だった。ポーチの中身を覗きながら、「コレは何だ?何に使うモノ!?」と半ば真剣になって悩んでしまった。
その他、細かいことなら数えきれないくらいある。
《女》のフリをしようとするだけでこれほどだ。《霧崎いづみという女》のフリをし出したらどれほど大変なのか、考えるだけでも気が重かった。
『それよりね、君。下着が見えそうになっているのだがね』
ベッドに倒れ込んだ時に、スカートの裾がめくれ上がって、確かに太ももがのぞいている。後少しでも下着も見えてしまうことだろう。
「誰も見てないんだから、いいだろう」
『私が見ているが?』
(中略)
このスカートというヤツも俺にとっては悩みの種だった。下半身が非常に心許ない。私服の時ならばパンツルックで通すこともできるだろうが、この先学校に行くことになれば、その制服はやはりスカートなのだろう。それが、気重だった。
↓ちなみに、ナヴィには性別が無く、主人公にはナヴィが死んだ姉の姿に見えています。
「今まで気にしたことがなかったけど、もしかしてお前って女なのか?」
『私がか?私という存在に性別はないよ。――ああ、しかし君には君の姉に見えるのだったね。だとすれば服の下は女性の体だと思うが。見るかい?』
↓主人公(身体はいづみ)が、意識していづみの演技をするシーンも良かったです。
「うん。……ありがと」
そう言って、俺も笑った。
少し儚げに見えるよう意識した笑みだ。《元の体》の俺にはあまり使う機会がなかったが、いづみの体と顔であれば効果的だろう。
いづみはいじめられっ子で、主人公はいじめがいづみの自殺未遂の原因ではないかと考えます。
↓主人公(身体はいづみ)は、いづみとして凄惨ないじめを受けます。
理恵は俺の手を離すと、ニタリと笑った。
「死んでよ」
《悪意》が形を持ったかのような、恐ろしい笑顔だった。
さすがにそれには、俺の思考も一瞬停止した。
いづみの裸くらい見ようと思えばいつでも見られるんで、そんなに嬉しくもないが、かと言って恥ずかしいとも思わない。そりゃあ、この場で裸にひん剥かれたら恥ずかしいだろうが、この写真に写っているのはいづみであって俺じゃない。
↓いづみの記憶を見てしまうシーンがあって最高でした。
《死ね死ね》という言葉が耳鳴りのように、ぅわんぅわんと響く。頭の中をかき回されるような感触。そして、様々な映像が俺の頭を駆けめぐった。
裸足で廊下を歩く俺。
階段から蹴落とされる俺。
頭を踏みつけられている俺。
下着姿のまま丸くなって震えている俺――
これはまさか、霧崎いづみの記憶か?
どういうことだ?なんで俺がいづみの記憶を思い出すんだ?
『なくはないだろう。人間の記憶というものが、肉体のどの器官に付随しているものかは知らないが、その部分もそっくりそのまま元の人間のものなのだからね。元の人物の記憶が蘇ってしまうことだって充分に考えられることだろうさ』
「要するに、その器官が脳味噌だったとして、今の俺はいづみの脳味噌を持っているんだから、そこに蓄積された記憶を自分のもののように思い出すこともあるんだな」
乳首に根性焼きをされそうになった主人公(身体はいづみ)は、度を越えたとしていじめっ子たちに仕返し。
上手く立ち回って、いじめっ子グループに亀裂を入れました。
しかしその翌日、いじめっ子グループのリーダーが「キリサキ」に殺されてしまい…
主人公の正体が「キリサキ」ということは中盤で明かされ、それまでの伏線が良かったです。
↓事情聴取中にセクハラをされてしまう主人公(身体はいづみ)の場面がお気に入りですね。
岡部が倒れたままでいる俺に手を差し伸べ、立ち上がらせると、大してついてもいない埃を払おうとするかのように、俺の体を何度か叩いた。
別に俺は気にならなかったが、これはセクハラってヤツじゃないのか?
案の定、田中の方が眉をひそめる。
「岡部さん、そりゃセクハラですよ。かわいそうに」
「ありゃ、そうかい?まったく、めんどうな世の中になったもんだね。――だが、すまなかったね。別にそういうつもりじゃなかったんだが」
岡部は頭をかきながら、俺に謝罪する。
「いえ……。別に、気にして……いませんから」
消え入りそうな声で俺はそう言う。「口ではそう言っていても、本当は気にしてるんだ」というニュアンスを臭わせたつもりだった。これで顔でも赤らめられれば言うことないのだが、なかなかうまくはいかないものだ。
↓主人公(身体はいづみ)のいづみのなりきりシーンが白々しくて良いです。
それを聞いた途端、俺は「ひっ」と小さく悲鳴をあげてうつむく。これは、口に浮かんだ微笑を隠すためだった。
ありがとよ、刑事さん。
「――だから、君なんか危ないと思うなぁ。『キリサキ』は可愛い女子高生がお好みだからね」
きっと田中は、俺を――いづみを怖がらせて、気を惹こうとしているのだ。
――心配すんな、俺(キリサキ)は俺(いづみ)を狙ったりしないよ。
俺はそう言ってやりたかったが、ここは田中の期待通り、怖がっておくべきだろう。
胸の前で鞄をギュっと抱き、体を小さくする。上目づかいで田中を睨み、
「そんな怖いこと、言わないで下さい……」
震えた声を出した。
俺が期待通りの反応をしたことがそれほど嬉しかったのか、田中は陽気な笑い声をあげ、何度か軽く俺の肩を叩いた。

主人公(身体はいづみ)は、現在の「キリサキ」の犯人を追ううちに、元の自分の身体と接触。
↓明かされるのは終盤ですが、主人公が「元の主人公の身体の中身は別人で、既に主人公の記憶に飲まれている」と考えていたのはミスリードで、元の主人公の身体の中身は主人公本人です。
「なあ、ナヴィ。前にも訊いたが、別人の肉体に入ったヤツでも、その記憶が蘇ることはあるんだよな?」
『そうだと思うがね』
「その記憶の量はどの程度のものなんだ?すべてを思い出してしまうこともあるのか?」
『そんなことを訊かれても困るな。だが、《ない》とは言い切れまい?言ったとは思うが、記憶が肉体にも記録されているとしたら、肉体がすべてそろっている以上は、記憶もすべて蘇ってもおかしくはないだろうしね」
「そういうものか?俺にはいづみの記憶なんてほとんど蘇ってこないぞ?」
(中略)
『《君の体》の中の《誰か》が元々、君に似ている人間で、君の体になじみすぎたのだとすれば、君のすべての記憶を得た可能性もある。君の成長の過程をすべてだ。だとすれば、どうなるだろうね?』
《俺》の喋り方に違和感はない。だが、まあ、《俺の中に入っている誰か》が男であるなら、さほど難しいことでもないだろう。
(中略)
――《誰か》は《俺》だ。
『キリサキ』として、理恵を殺害したかどうかまでは分からないが、少なくとも、《俺》としての記憶を大部分持ち、姉さんの死も知識としてではなく、自分の記憶として実感している。『キリサキ』として活動したことも知り、それでいて『キリサキ』をやめようとはしていない。
そうでなくては、あんな顔はできない。

↓同一人物同士の心理戦がなかなか良かったですね。
この時点では主人公の身体の中身は誰かわからないので、いづみの中身が主人公だとバレるのではないかとハラハラしました。
自分相手のデートで、自分好みのコーディネートに悩む主人公(身体はいづみ)のシーンが好きです。
あれは……!
「これは君が置いたものかな?」
俺が近付いてくるのを知ると、そいつは立ち上がって、花束に視線を向けながら訊いてきた。
「……う、うん」
「そう。君は、彼女……杉山さんの友達?」
「うん。霧崎いづみって言うの。あなたも……?」
「どうかな。友達ってほどには親しくはなかったかもね。俺は――」
そいつは名乗った。知っている。その名はよく知っている。
そいつは――《俺》だった。《俺の体の中にいる誰か》だった。
なんで殺害現場(ここ)にいる――とは思わなかった。《誰か》は、《俺》だ。ナヴィが言っていたように肉体に取り込まれているのかどうかは知らないが、俺とほぼ同じ思考をするもんだと思っている。だとしたら、この場所に来ている理由も察しが付く。
「そう言えば、杉山さんがクスリやってたって噂を聞いたんだけど、本当?」
――きたな。
「う~ん。どうかな?わたしは別に理恵がクスリきめてたって聞いても驚かないけどね」
俺は軽口を叩くような調子でそう答えた。
普段の《いづみモード》とは別のキャラを演じてるのにもちゃんとわけがある。俺は《誰か》に「霧崎いづみはノリの軽い女」と思わせようとしていたのだ。もっと直接的に言うのなら、「こいつは馬鹿だ」と思われるようにしていた。当然、相手も油断するし、その方が俺の目的のためにも都合がいい。
それにしても《誰か》もずいぶんといきなり核心に迫るもんだ。俺の演技が功を奏したお陰だと思いたい。
「じゃあさ、その子を俺に紹介してくんないかな?」
――なんだと!?
俺は《誰か》の直接的すぎるアプローチに驚いた。これでは《誰か》が麻薬のことを探ろうとしているとすぐにばれてしまうじゃないか。
こいつ、本当に《俺》か?
俺の中に疑念がよぎったが、もちろんそんなことは表に出したりなんてしない。
「うそ!?わたしをナンパのダシにしようっての?」
何も分かっていませんという素振りを決め込み、俺は答えた。
「まあ、そんなつもりもあるようなないような感じかな」
「わたしみたいな可愛い子を前にしてそんなこと言うだなんて、あんた結構ヤなヤツだね」
「あれ?もしかして嫉妬?」
「自信過剰って言うんじゃないのそういうの。会ってちょっとで嫉妬されるほどいい男じゃないでしょ、あんた」
「それはどうかな……?」
「うっわ。すっげームカつく」
そして、主人公(身体はいづみ)はとうとう元の自分の身体を殺す決意を…
最後にいづみの身体でお風呂に入って綺麗にしたり、いづみの姉のひとみにお別れを言ったりと、熱い展開です。
↓ちゃんと主人公(身体はいづみ)が元の自分の身体の息の根を止めるシーンもあります。
「ぐ……が、がはっ……あ………………!」
それが、《俺の体の中にいる誰か》の最期だった。
《誰か》の持っていたナイフがカランと音を立て、地面に落ちる。俺が力を緩めると、支えを失った《俺の体》もドサリと倒れた。
俺は荒い息を吐きながら、横たわる《俺の体》を見下ろしていた。
↓ここで、主人公(身体はいづみ)は「自分がいづみに殺されて死んだ」という事実を思い出します。
状況がややこしくて説明しにくいですが、いづみ(中身は主人公)に殺された主人公は、過去のいづみの身体に入って、また主人公を殺してしまったという無限ループな展開です。
死後の世界の影響で、時間軸が滅茶苦茶になっているらしいです。
俺はあの日、霧崎いづみに呼び出されこの場所に来て、首を絞められて――死んだ。
俺はいづみに殺されたんだ!
俺は俺(いづみ)に殺された……?
ワケが分からなかった。何も考えられなかった。俺は頭を抱え、その場所にうずくまることしかできなかった。

↓そして、死んだ主人公の身体にはナヴィが入ります。
ナヴィの正体は×××なので、ここでようやく主人公と×××の入れ替わり状態に。
意味はあまりないですが、ネタバレなので一応伏字にしておきます。
「あ……あぁ、あ~」
発声練習でもしているかのように、何度か意味の通らない声を出した。そして、咳払いを一度、二度。
「肉体ってのは、こんなに扱いづらいものだったかな。久しぶりだから感覚を忘れてしまったよ」
声は《俺》の声だった。だが、その内容は――
「ナヴィ?……お前、ナヴィか?」
「まあね。君にはお借りしますと言っておいた方がいいのかな?いや、もう返せそうにもないから、頂きますが適当だろうかね?」
後は、いづみの姉・ひとみの身体に入っていた真犯人との対峙です。
↓真犯人は、死んだ元の自分の顔を切り裂き、元の自分の評判を落とすことも厭わないサイコパスでした。
真犯人がひとみの身体になったあたりは、乗っ取り的にかなり良かったです。
「別に大した意味はないわよ。殺した後には、あの女の澄ました顔を、メチャクチャにしてやろうと思ってただけね。本当はこの顔――」
そう言って自分の顔を――ひとみの顔を手の平で撫でる。
「この顔だったならよかったんだけど、そういうわけにもいかなくなったから、別の顔で代用してみただけよ」
「代、用……!」
……できるか?普通。
憎い相手でもない、何も知らない赤の他人でもない、つい先程まで自分の顔だったものを、無残に切り裂くだなんてことができるもんなのか!?
「でもまあ、ちょうどいい頃合いだったわ。派手に動きすぎて、警察にも目をつけられていたらしいからね。この体になって心機一転、一からやり直すことができたもの」
(中略)
「あたしがやったことよ。学校に噂を流したのも、週刊誌に情報をリークしたのもあたし。せっかくだから、有効活用させてもらわなくちゃね。派手に噂が広まれば、疑いの目はみんな《元のあたし》に向けられるでしょう?まあ、ちょっとやりすぎちゃって、学校全体が疑われ出してしばらく大人しくしなけりゃいけなかったのは、失敗だったかな」
最後にあがいて主人公(身体はいづみ)を取り込もうとする真犯人の「これからも、××が××になっちゃったけど、二人ずっと一緒よ……」というセリフが入れ替わり的に最高でした。
意味はあまりないですが、ネタバレなので一応伏字にしておきます。
しかし、いづみが自殺未遂をしたのもひとみの身体になった真犯人のせいで、主人公の行動理念も真犯人のせいで全て無駄になってしまっているので、色々と救われません(汗)
真犯人はひとみの身体のまま「キリサキ」だと自供してから自殺したため、事件とはほぼ無関係のひとみが「キリサキ」として遺族からのヘイトを集める対象になるのも救われなさがありました。

↓主人公と×××の入れ替わりは、元に戻らないことが確定しています。
お互いのフリをする二人の仲が良くて尊いです。
ちなみに、主人公の名前は最後の最後に判明します。
ようやくにやってきたのは、学生服を着たナヴィだった。――というと、なんだか不自然な気がするが、俺にとってはそうだった。
《俺の体》に入ったナヴィは、一命を取り留めた。しばらくの入院生活を経て、今では無事に《俺》としての生活を送っている。
たまには、《俺》の記憶が蘇ることもあるのだそうだ。俺は未だにいづみの記憶が蘇ることなどほとんどないというのに。
それ以来、俺とナヴィはよく会うようにしている。どちらにしろ、俺はいづみ(ナヴィ)でナヴィ(いづみ)が俺なのだ。お互いの事情を教え合わねばならない。ただ、躍起になっているのは俺一人のようで、ナヴィは《俺の体》であるにも拘わらず、結構好き勝手やっているようだ。
「俺はこんなに苦労してるってのに……」
「君はいつまで経っても、その体に馴染まないようだねぇ。その顔と体で、今のような汚い口のきき方をされると、私は目を覆いたくなるよ」
その言葉の通り、ナヴィは片手で目を覆い、軽く上を向いた。今にも「オー、ノー」とか言い出しそうだ。
「お前には言われたくないけどな。これでも俺は未だに学校じゃあ、いづみの皮をかぶってんだぞ?お前は家とか学校でまで、そんな口のきき方してんじゃねえのか?」
俺が言い返すと、ナヴィは俺の方を向いて、一度、二度、コホンと咳払いをすると、小さく笑った。
「馬鹿にすんなよ。俺がその気になれば、その程度のことくらい簡単にやってみせるさ」
対して俺も、小さく笑みを浮かべる。
「それは、わたしだって同じだよ。その気になればこれくらいは、ね」
俺とナヴィはしばらく顔を見合わせて笑った。
君の顔では泣けない
| 作品タイトル/著者 | 簡単なあらすじ | 収録書籍/ソフト |
| 『君の顔では泣けない』 著者:君嶋彼方 | 主人公は十五年前にクラスメイトの女の子と入れ替わって元に戻れていなかった。 | 角川書店 『君の顔では泣けない』 |
※本項目の画像は、全て上記作品からの出典です。
高校一年生の坂平陸は、同級生の水村まなみと一緒にプールに転落した翌朝、何故か身体が入れ替わっていた。
二人はいつか元に戻れると信じ、入れ替わったことを隠して過ごしていたが、とうとう十五年の月日が経ってしまう。
元に戻れないながらも前向きに陸として生きるまなみに対し、陸はまなみになりきれず…
三十歳となり、妻として母親として主婦として生活する陸(身体はまなみ)が、年に一回まなみ(身体は陸)に会いに行くシーンから始まります。
↓まだ読んでいない方は、とりあえず冒頭の一ページを読んでみてください。
一ページ目でピンと来たら、今すぐ読破することをオススメします。後悔はさせません。
女の子と入れ替わって十五年間元に戻れていない男の子がこれらの一連の動作をしているんですよ。エモくないですか?エモいですよね。
年に一度だけ会う人がいる。夫の知らない人だ。
その日はいつもより一時間以上早くアラームが鳴る。夫と娘が目を覚ます前に素早く音を止め、息を殺してゆっくりと布団から這い出る。娘が蹴飛ばしたブランケットをかけ直す。
リビングに向かい、カーテンを開ける。七月ともなると六時前にはもう日が高い。いつもこの日はいい天気だ。今日もその法則に違わず、高い空には雲一つなく太陽が煌々と照っている。普段は見上げたりしない青空を仰いでみる。
炊飯器を開ける。セットしたタイマー通りに米がきちんと炊けているのを確認すると、蓋を閉じて、トイレに行って顔を洗い、歯を磨く。昨日は早く床に就こうと思っていたものの、なんやかんや二時過ぎまで寝られなかったのですこぶる眠たい。着替えを終え、化粧は新幹線でしちゃえばいいか、と一瞬思ったものの、席に座るやいなや眠ってしまう自分の姿が容易に想像できて、どうにか自らを奮い立たせて化粧道具を手にする。
結婚して子供ができて、着飾ることからいつの間にか遠ざかりつつあるが、今日は久々に気合を入れる。あいつに老けたなとか変わったなとか思われるのが一番むかつくのだ。
↓最初は入れ替わりストーリーだとは伏せられていて、第一章の終盤で入れ替わっていたと明かされるタイプです。
この一連の流れが大変素晴らしく、正直に言うと入れ替わりモノだと知らずに読み進めたかったなぁ~と思います。
特に、久しぶりに再会して話している二人の一人称や二人称が、途中から素に戻っていく描写にゾクゾクしました。
そうだ。もうずいぶん経つ。今年で十五年。この体に慣れて馴染んだつもりでも、本来の自分のようなものはずっと奥に潜んでいるのかもしれない。
十五年前。俺たちの体は入れ替わった。そして十五年。今に至るまで、一度も身体は元に戻っていない。
↓入れ替わりが明かされる前に、入れ替わって戻れていないと知っていると意味が変わってくるセリフも多くありました。
また、一度読み終えてから再び第一章を読むのも別の味わいがあって良かったです。
全体を通して、入れ替わりの残酷な側面が余すところなく書かれていて、真面目な入れ替わりモノとして非常にオススメできる作品です。
「そりゃたいへんだ。で、ごめん、これ毎年聞いてる気がするんだけど、今は水村じゃなくて、なにさんになったんだっけ?」
「蓮見。大丈夫、俺も未だにいまいちしっくりきてないから」
↓二人とも入れ替わった相手の人生を壊さないように、いつ戻っても良いように生きてきたようです。
プールに転落した翌朝に入れ替わっていたという原因がいまいち不明瞭な入れ替わりで、いつ戻るかも、二度と戻れないかも全くわからないため、二人とも常に相手を意識した人生を送ることを強いられます。
これが絶対に元に戻るだとか、絶対に元に戻らないだとか、未来が決まっていたら生き方も違うのですが…。この「先のわからなさ」が今作のポイントだと思います。
この場所だけは、ずっと変わらないままでいなければならない。いつでも戻って来られるように。それが、自分がこの体でいる間の義務なのだから。
第二章からは、十五歳の時に入れ替わり、現在の三十歳になるまでが順番に回想シーンという形で、全て陸(身体はまなみ)の一人称視点で書かれています。
まなみ(身体は陸)は自分の気持ちを隠すタイプで、陸(身体はまなみ)もわざわざ根掘り葉掘り相手の気持ちを聞き出すタイプではありません。
そのため、まなみ(身体は陸)の心情描写はほとんどなく、数少ないセリフや陸(身体はまなみ)の主観による推測から読み取るしかありません。
片方の一人称視点のみには一長一短がありますが、今作は入れ替わり相手の心情がわからないことによる不安・焦燥などの描写で感情移入しやすくなっており、プラスに働いていたと思います。
異性の肉体描写はともかく、異性の心情描写は下手に書くと微妙になりがちなので、いっそ無い方が良いというのもありますが。
本作は異性として生きていかなければならない葛藤ももちろん書かれていますが、それ以上に他人として生きていかなければならない葛藤に焦点が当てられています。
入れ替わりにおける他人との人生の交換という側面では、特に家庭環境の違いの描写が中心だったと思います。
まなみは一人娘として両親から愛情を注がれているのに対し、陸はギスギスした家庭で育っていました。
陸(身体はまなみ)はまなみの家庭環境に嫉妬しながら、まなみの両親から愛情を受け、陸の家庭との違いを見せつけられて打ちひしがれます。
↓まなみ(身体は陸)がまなみの家族に受け入れられるのに対し、陸(身体はまなみ)が陸の家族に受け入れられないのが悲惨です。
相変わらず不機嫌そうな母の顔を思わず見つめる。このまま東京へ行ったら、もう会うことはないだろう。この狭い町だ、偶然顔を合わせることはあっても、こうやって言葉を交わすことはきっとない。俺と水村が元に戻らない限りは。
喉の奥から熱い何かが溢れ出しそうになって、慌てて唾を飲む。何か言おうとしても何も言えない。もうこの人を母だと思ってはいけない。父もそうだし、禄だってそうだ。もう自分とは何ら関係のない、他人の家族。俺がかけられる言葉なんて何一つなかった。
↓まなみ(身体は陸)の方も、まなみの両親が本当の娘として扱うのは陸(身体はまなみ)の方で、赤の他人としてお客様扱いしかされないわけですが。
何も知らない二人の家族もかなり不幸だと思います。
七月、大学が夏休みに入る頃、同窓会に参加すべく実家へ帰った。正月以外の初の帰省に母親は喜んだ。食卓には俺の好物が並べられ、布団も洗い立てのいい匂いがした。父親は相変わらずの仏頂面だったが、「もっと帰って来い」といつになく穏やかな声色で言っていた。
心が痛んだ。今まで帰省を拒んできたことに対してじゃない。これだけの歓待を受けても、ちっとも心を動かされないことに対してだ。この優しく娘思いの両親は、俺にとって帰りたくなる要因にはなりえないのだ。
「陸君みたいな男が息子なら、俺も自慢できるんだけどなあ」
わはは、とわざとらしい笑い声を上げる。下がりきった眉毛と目尻が本気の無念さを隠した笑顔の象徴に見えて、正直あまりいい気分はしない。
「あら。私は陸くんのこと、ほんとの子供だと思ってるわよ」
母親がにこにこと笑いながら水村の肩を叩く。ひやりとしたものが背中を走った。水村の顔を見てはいけない気がして、慌ててテーブルに視線を移した。
俺たちは随分と奪い合って生きてきた。家族も友人も恋人も。奪い合って許し合って、狭い狭い秘密という殻の中で見付からないよう身を潜め肩を寄せ合い丸まって、十五年間生きてきた。もう慣れたと思っていたのに。それでもやはり唐突に秘密の代償が牙を剥くこともある。
↓陸(身体はまなみ)が陸の父親の葬儀に参列できず、赤の他人のまなみ(身体は陸)が息子として参加している場面を見て帰るシーンはエグいですね。
陸(身体はまなみ)は陸の母親から嫌われているので、心配したまなみの両親から葬儀に参列するのを止められるっていうのがもう…言葉が出ません。
心の中で、悲しんではいけない、という冷たい鉛のような決意が横たわっていた。だって俺はもうあの場所に家族を置き去りにしてきたのだから。だからもう関係のない人だ。一度少し話しただけの、ただの他人。
最後の言葉をと思っていたのに、いざこの場に来て一体何を言えばいいか分からない。父さん、俺です、陸です。そう心の中で話しかけられたところで、父とて理解できないだろう。ほとんど知らない女が息子だと名乗っているなんて。俺は死んだ父にすら、息子だと思ってもらうことができない。
(中略)
だっておかしいだろう。何が、いらっしゃいどうぞ、だ。何がお線香上げてあげて、だ。この家の息子面しやがって。俺だって泣きたかった。母と一緒に声を上げて泣きたかった。母の背中を撫でながら弔問客に頭を下げたかった。弟と父の昔話をしたかった。泣く弟の頭を抱いて慰めてやりたかった。弟の表面張力を振り切る一滴は、俺でありたかった。なのに。こいつは、俺から全てを取り上げたのだ。
↓三十歳の時点では、二人とも今の家族が自分の家族だと受け入れているようでした。
駅の出入り口に繋がっている陸橋を降り、ロータリーできょろきょろと辺りを見回していると、「まなみー!」と母の声が聞こえた。振り返ると車の窓から顔を出して母が大きく手を振っている。
「いつも、墓参りしてくれてありがとな。水村」
「そりゃあね、私のお父さんだもん。当然ですよ」
ということで、十五歳で入れ替わった時から順番に見ていきましょう。
作中で書かれているのは、十五歳→十八歳→二十一歳→二十四歳→二十七歳→三十歳になります。
入れ替わり的に美味しいネタが多すぎて、細かいものは書き切れないのが残念無念です。
↓陸(身体はまなみ)は、入れ替わった直後に即生理イベントです。
かわいそうなことに、陸は生理一~二日目のまなみの身体に入ってしまった形になります。
女体を探索して喜ぶのはおろか、鏡を見るのもそこそこにトイレに駆け込み、パニックになりうずくまって泣くことしかできません。これでは胸揉みどころではないです。
見覚えのない机、見覚えのない本棚、見覚えのないパジャマ。気味が悪くなって半身を起こす。途端に鈍い痛みが下腹部に走った。腹をさすりながら、ベッドから這い出て姿見を確認する。
そこには見覚えのある女がいた。同じクラスの水村だ。水村が、チェックのパジャマを着て腹を押さえた姿が映っている。
ズボンと下着を脱いで便座に腰掛ける。今思えば目の前に剥き出しの異性の性器があったというのに、その時は興奮どころではなかった。胃でも腸でもなく、腹の下の辺りがぎりぎりと締め付けられる痛みがある。排便痛ではないことは明らかだった。どうしたらいいか分からずただ腹を押さえて唇を噛む。
すると、股から何かどろりとしたものが這い出た。同時に生臭い臭いがする。恐る恐るシャツをたくしあげて、便座を覗き込む。白い便器には、濁ったゼリーに似た血の塊がべったりと落ちていた。
まなみ(身体は陸)からの電話を受けた陸(身体はまなみ)は、とりあえず会って情報共有することに。
↓自分自身の肉体から香ってくる女の子の匂いに、興奮してしまうシーンがエッチでした。
生理ネタは他にも何回か登場しており、どれもリアル寄りで生々しい感じです。
異邦人に向かいながら、女というだけでこんなにも勝手が違うものか、と思っていた。まず自転車を漕ぐ足に力が入りづらい。坂道がかなりしんどい。いつもしている立ち漕ぎも長い間はできなかった。そして、どこからかは分からないが風が吹くとふわりといい香りがする。これは多分俺の匂い、すなわち水村の匂いだ。シャンプーなのか洋服の洗剤なのかは分からないが、甘い匂いがして下半身がむずむずする。むずむずしながらもいつも勝手に反応するそれは存在しなくて、腹の奥がもやもやするだけで居心地が悪い。そんなことを思いながらも股間からどろりと何かが滑り落ちる感覚が時折あって、不快さで思わずサドルから腰を浮かす。
初対面シーンは声ネタなどお約束でおいしいです。
まなみ(身体は陸)は既に着替えもトイレも済ませていて、陸(身体はまなみ)が恥ずかしがるのが最高でした。
一応、陸(身体はまなみ)がトイレや着替えをする描写も作中にあります。
↓直接的なエロシーンは皆無に近いですが、陸(身体はまなみ)が普通の男の子の性欲を持ち合わせていると思わせる描写もありました。
水着。その単語に思わず邪な想像をしてしまう。さっきはそれどころじゃなかったが、いざ改めて自分の体が異性のそれになっているという事実を認識して、急激にむず痒さが全身を走った。
元に戻ろうと、もう一度プールに落ちてみますが、翌日になっても元に戻っていませんでした。
↓一日目はすぐに戻ると思って楽観的でしたが、二日目にも元に戻らず、ひと夏を終えても元に戻らず、「元に戻れるかもしれない」の希望が「元に戻れないかもしれない」の絶望に…
「うん、もう大丈夫。ありがとう、お母さん」
それが、俺の水村まなみとしての長い人生の始まりだった。もちろんその時は、そんなことはちっとも思っていなかったけれど。
今日さえ乗り越えられればきっと、ともはや二人とも口にはしなかった。いつ元通りになるかなんて分からない。でもその時が来ると信じて、お互いを完璧に演じ続けるしかない。俺は水村まなみを失敗してはいけないし、水村は坂平陸を失敗してはならない。
↓二人とも、特に今までの人生に不満を持っていたわけではないごく普通の男子高生と女子高生なので余計に元に戻りたがります。
元に戻りたいという思いが強い陸(身体はまなみ)は、戻る気配の無い毎日を送る不安からいつか元に戻れると楽観的に励ますまなみ(身体は陸)を責めてしまいます。
まなみ(身体は陸)は平気そうにしているだけで、同じく入れ替わりの被害者ですが。まなみ(身体は陸)は陸(身体はまなみ)を励まし続ける聖人です。
怖かった。もう二度と俺は男として、坂平陸という人間として生きることはできないかもしれない。女の子と付き合ったりキスしたりエッチしたり、そういうのをしないまま人生が終わる。自棄を起こしそうだった。実際何度も水村を怒鳴りつけていた記憶がある。ふざけんなよ、どうすりゃいいんだよ。俺の人生返してくれよ。同じ境遇の水村に当たり散らすなんてみっともないが、水村にしかその感情を吐露できなかったのだ。
ちなみに、入れ替わった二人は同じクラスなだけでほぼ初対面。
良く知らない相手の演技をし続けるのにも限界があり、友達や家族との関係も変わってきてしまいます。
入れ替わり相手が元の自分の人間関係を変えたのが気に入らなくても、成す術がないというのが悲惨でした。
↓陸(身体はまなみ)は、いつかまなみに身体を返す日が来ると思い、まなみの人生を変えないことを決意しますが、この決意という名の足枷のせいで全然上手くいきません。
まなみが陸の身体をどう扱おうと、陸はまなみの身体を大事にするという気合の入れようですが…
陸(身体はまなみ)の至らなさのせいで、「まなみ」は彼氏と別れてしまい、友達にも嫌われてしまいました。
そのとき、俺は誓ったのだ。いつ水村が水村の人生を取り戻してもいいように。水村が辛い思いをしなくていいように。そのために俺は水村として完璧に生きて、家族もクラスメイトも恋人も騙してみせるのだと。
↓挙句の果てには、陸(身体はまなみ)は部活の顧問にセ○ハラとレ○プ未遂をされて男性恐怖症になってしまいました。
陸(身体はまなみ)は入れ替わってからずっと女性としての苦労のオンパレードで、非常にかわいそうです。
男なのになあ、俺。それなのに俺は今女として、女という性を蹂躙されそうになっている。
(中略)
磯矢の両腕が制服の下に突っ込まれる。そのまま服をまくられブラをずり下げられ、露わになった両胸をぎゅうっと摑まれる。ぞわりと何度目か分からない悪寒が走った。舌は耳や首筋や鎖骨あたりをなめくじのように這い回っている。太腿の辺りに覆いかぶさった磯矢の下半身が当たる。ズボン越しに硬く熱を持ったそれはかつての俺がよく知っていたものだった。
友人として接していればなんという事はないのに、自分が異性として意識されていると気付いた途端、一気に拒絶反応がこみ上げてくる。低い声も青髭も、筋肉を誇示するような服も腕に浮き出た血管も、全部おぞましくなる。ただの優しさとしか受け取っていなかった好意すら、下心が透けて見えるようで気持ちが悪くなった。
(中略)
かつては自分も持っていたものなのに。男性器や性欲や恋心。かつて持っていたものだからなのかもしれない。どうしても拒絶したくなってしまうのは。
かといって女の子と付き合えばいい、というわけにもいかないようだった。不思議なことに、入れ替わる前確かに持っていた女性への劣情は、この体になってからだんだんと失せていった。そういえば水村が言っていたことがある。この体は、性欲が抑えきれなくて困る、と。性差とはそういうものなのだろうか。一度ひとりでしてみようと思ったこともあるが、指を入れてみて、それ以上はなんだか怖くてなにも出来なかった。
磯矢に襲われたこともきっと大きいだろう。胸をまさぐられた感覚や押し付けられた硬い性器の感触を思い出すと、今でも吐きそうになる。あれが、女として男の性欲を受け入れる、ということなのだ。そう思うと、やはりどうしても無理だった。
↓十八歳。この頃には、まなみ(身体は陸)は元に戻るかわからないなりに自分らしい陸として生き始めます。
まなみ(身体は陸)は無理せず生きて、もし元に戻ったらその時考えようみたいな感じですね。さっさと彼女を作って童貞を卒業までしますw
まなみ(身体は陸)との温度差に、陸(身体はまなみ)は元に戻るのを諦めたかのような印象を受けて大きなショックを受けます。
「そういうの、もういいんじゃないかなあ」
「へ?どういうこと?」
「戻ったときそのほうがいいからとか、情報共有しやすいとか、そういう理由で将来を決めるの、やめた方がいいと思う。悪いけど、私はそういうの考えないで好きなことさせてもらう。だから、お願いだから坂平くんもそうして。私を言い訳にして先を見据えることを放棄しないで」
裏切られた、とも感じた。だって俺はいつだって、水村まなみでいることを最優先にして生きてきたのに。今更好きなことをしていいなんて言われたって困る。何も思いつかない。俺の好きなことってなんだろうか。急に足元も見えない濃い霧の中にひとり放り出された心地になる。
↓入れ替わっていた期間の方が長い高校生活。知らぬ間に成長していく元の自分の体。描写が最高です。
卒業記念品のイニシャル入りの万年筆を交換するシーンがエモかったです。
ちなみに、体質や頭の良さは身体準拠で、運動神経は精神準拠のようでした。
そして高校生活が終わりを迎える。入れ替わってから二年半以上が過ぎていた。高校生活で学ランを着ていたのはたった三ヶ月ほどで、セーラー服を着ていた期間の方が長かった。スカートにもスカーフの結び方にもすっかり慣れてしまった。
それはかつての俺である坂平陸も同じで、背の順で並んだ時に後ろから二番目になるくらいには背が伸びていた。自分を見上げながら話すのは変な感覚だった。頬は丸みを失い、骨格は力強くなり、幼さが消えつつあった。かつての俺ではない俺にどんどんとなっていってしまっている。
水村まなみはもう背は伸びない。髪が伸びても一年の時のように短く切り揃える。なるべく、なるべくあの時の姿でいつづけようと。でも何故だか、俺だけ置いてけぼりを食らっているようだった。俺が行き止まりだと思っていた未知の先を、水村たちはどんどん進んでいっている。
誰にも本人だと知られずに他人を演じ続ける苦悩も非常に良く書かれていました。
↓陸の弟の禄や陸の友達の田崎が、陸が変わってしまったことに薄々気がついていたと分かるシーンが若干の救いでした。結局入れ替わったことは話しませんが。
気付いていたのだ。誰も気が付かなかった。水村の演じる坂平陸という男の違和感に、弟の禄だけが気付いていた。明確にではないけれど、微かな異変としてきちんと気付いていた。
嬉しかった。水村には申し訳ないけれど、なんだかすごく嬉しかった。以前の俺をちゃんと覚えていてくれて、今の俺を本当の俺じゃないと言ってくれる人がいる。しかも、それが自分の弟だった。何故か目頭が熱くなる。自分のことを知ってくれている人がいるということが、こんなにも嬉しいことだなんて、思ってもいなかった。
「んーまあ、なんか違うなーって思う時はあったよ、やっぱり。俺はさ、馬鹿みたいに騒いで笑ってた頭空っぽの坂平と仲良くなりたくて友達になったからさ。でもま、あーもしかしたら何かあったのかもなーって思ってさ。坂平は坂平に変わりないし。しかもさー飯田とか全然気づかなかったっぽいんだよね。だから、ま、俺の勘違いかもしれないけどさ」
二人とも演技を続ける苦労から、誰も知り合いのいない東京の大学へ進学。
高校生の頃は毎日の出来事を報告し合っていましたが、二十一歳になった二人は演技をする必要がなくなったせいで会う頻度が減り、元に戻った時のための日記を毎日つけるだけになってしまいました。
↓大学デビューした陸(身体はまなみ)は、ダイエットや化粧をして綺麗な女性に。
水村まなみは綺麗になった。まるでナルシストのように聞こえるかもしれないが、元々は俺の体ではないわけで、そういった意味では自慢にはならないだろう。でも誇らしい気分になることは間違いない。何せ俺はめちゃくちゃ努力したのだ。高校時代より十キロは体重を落としたし、どういうファッションをすればいいのかどういうメイクが自分に合うのか、雑誌やモデルのブログを読み漁り勉強した。そのお陰か、昔の芋臭さが嘘のように垢抜けた。
↓陸(身体はまなみ)は同窓会で再会した田崎に告白されて、初体験を迎えます。
こちらもリアル寄りのドライな心情とドライな描写です。恥ずかしがるところが好きですね。
ちなみに一人プレイの方は、怖くてできないと言って深い追及はありません。
初体験を知ったまなみ(身体は陸)が興味津々に聞いてくるのに興奮しました(笑)
俺よりもずっと長い両手と両脚で、俺の体を組み敷いている。四肢を檻にして逃がすまいとしているようだった。その征服欲が何故か心地好かった。全て委ねられる気がした。
(中略)
両胸が剥き出しになって、それを見下ろした田崎が息を呑む気配がした。さすがに煌々と照らされたライトの下で裸体を晒すのは恥ずかしくて、目を逸らす。
(中略)
俺はいいけど、汗臭いとかって思われたらやだな。でも今からシャワー浴びたいってさすがに言えねえしな。ああでも無駄毛だけは処理しといて良かった。夏だからまだ良かったな。ってか、今日下着どんなのだっけ。よれよれのではないけど、まさかこんなことになるとは思わなかったし、普通のだった気がする。
やはり快感らしきものはやってこなかった。ただ痛みもなく、歯医者で口の中に指を突っ込まれる感覚に似ているな、と思った。薄い湿った肉を蹂躙されている感じだ。
(中略)
田崎が腰を突き出す。俺の入り口に先端が当たる。中がゆっくりと押し広げられる。肉に分け入るように、硬い物が入ってくる。もっと熱を感じるのかと思っていたが、その感覚はなかった。ただ丸みを帯びた肉塊が緩やかに侵入しようとしてくる感じだ。
痛くはなかった。痛くはないが、物凄い異物感だった。一気にお腹の中が重くなった感覚がある。自然と息が荒くなる。
胸や足を盗み見されたり、電車で痴漢に遭ったり、自分が異性から性的対象として見られることにあれだけ激しい嫌悪感があったのに。それなのに、今田崎が自分の体に興奮を覚えてくれているんだと思うと、嬉しかった。田崎だから、嬉しいのだと思った。
二十四歳。田崎ともすれ違いで別れた陸(身体はまなみ)は、仕事で知り合った蓮見涼と恋仲に。
まなみ(身体は陸)はコロコロと恋人が変わり、今度は男性と付き合うことにしたようです。
女性が性的対象の陸本人が陸のままであれば男性と付き合うことがなかったであろうに、陸の身体のまなみが男性と付き合っていると考えるとジワジワきますね。
↓入れ替わった状態で十年近く過ごしており、陸(身体はまなみ)は入れ替わったのは夢だったのではないかと思うようになります。
過去の自分が夢だったのではないかと思うときがある。今の俺が本当の俺で、過去の俺は偽物なのではないかと。怖くなる。男だった頃の自分を懐かしむこの感情すら、ただの妄想の産物なんだろうかと。
↓元に戻りたいと思いつつも、既に今の生活に慣れてしまっているので、「元に戻ったらどうしよう」という新たな恐怖に襲われているのも良いですね。
元に戻れるかどうかすらわからない設定が非常に良く活きています。
その一方で、この今の生活を失ったらどうしようという、恐怖心もある。涼のことは好きだし、少ないけれど時々飲みに行く友人だってできた。好きでも嫌いでもないがようやく慣れてきた仕事だってある。元に戻るということは、それらを全て失うということだ。
陸の父親の葬儀に参列できず、悲しむ権利もなかったことから、陸(身体はまなみ)は入れ替わりの残酷な現実を再度突きつけられます。
↓今までの「まなみの身体を大事にする」という決意が揺らいでしまうのが最高ですね。
もっとも陸(身体はまなみ)は、まなみ(身体は陸)に「その身体を大事にしてくれ」など一言も言われておらず、自主的に大事にしているだけですが…
鏡に映るのはもうすっかり見慣れた女の顔だ。肌の手入れはかなり気を遣っていて、決して安くはない化粧水や乳液を通販で取り寄せている。化粧品代だって馬鹿にならない。美容院も月に一回通っている。
一体俺は誰のために綺麗であろうとしているんだろう。自分の為ではなく、男達の為でもなく、ただ一人の女の為だ。でもそれって意味があるんだろうか。この人生を守り続けることに、意味はあるんだろうか。
↓糸が切れてしまった陸(身体はまなみ)は、入れ替わりの事実を周囲に話すと言い始め、同じく入れ替わり被害者のまなみ(身体は陸)に今までの不満をぶちまけて当たり散らしてしまいました。
二人が感情をぶつけあうシーンが大変痛ましくて最高です。
戻ったらその時考えようと自立した人生を送るまなみ(身体は陸)と、元に戻るまで人生を守ろうと依存する陸(身体はまなみ)が、十年近く大きな衝突をせずに済んでいたのがもはや奇跡です(汗)
「俺の体を満喫してるもんな。恋人もできてさ、友達だっていっぱいいてさ。俺とは大違いだよ。高校んときからぼっちで、変態教師にセクハラされて、実の母親からは敵視されて。田崎とだってあんなことになっちゃってさ。ほんと羨ましいよ」
「何が親切心だよ。私に責任おしつけてるだけじゃん。なにからなにまで私に委ねようとしないでよ。坂平くんがどこに就職しようがだれとつきあおうが、一切興味ない。坂平くんの人生に私を巻き込もうとしないで」
「そろそろ出てってくれないかな。お母さん帰ってきちゃうから」
その言葉に、俺は何も言わず立ち上がる。無言のまま背を向けて、玄関へ向かう。
「私、今はじめて思った。べつにもう、一生このままでいいって」
靴を履いている俺の背中に、水村が呟く。
「おれも」
「そっか。じゃあ、もういいよね」
喧嘩になった二人は決別。
一人で生きるのが不安な陸(身体はまなみ)は、勢いで涼に逆プロポーズして結婚してしまいます。
↓陸(身体はまなみ)は、涼に入れ替わりのことを話しておらず、女性扱いされると複雑な気持ちになるようです。
「まなみちゃんこそ、あんま夜遅くまで出歩いちゃ駄目だよ。そっちらへん街頭少ないし、女の人は特にそういうところ危ないんだから」
その声が帯びた真剣さに、下手に茶化すこともできず、はいはい分かったよ、とあしらう。
女性という性別にだいぶ慣れたつもりでいても、表立って女扱いされると、どうにもむずむずする。だからといって踏みにじられたりするとそれはそれでげんなりしてしまうのだが。
二十七歳になった陸(身体はまなみ)は、涼との子供を妊娠中。
↓妊娠していることに関しても、リアル寄りでドライな感じです。つわりは酷そうでした。
陸(身体はまなみ)は、まなみの実家に里帰り出産をします。
涼が父親らしい顔をする度、俺は不安に襲われていた。今から自分は母親になる。そんな実感がちっとも湧いてこない。いっそのこと、早く産んでしまいたかった。命なんかではなく、異物としてしか認識できない。にきびや吹き出物といった類の、余計な物を包容した大きな腫瘍にしか思えない。
↓出産の恐怖に怯えるシーンも良かったです。(実際の出産・子育てシーンはありません。)
決別してからも入れ替わった事実からは逃れられないのが最高です。
入れ替わったまま死ぬと、誰にも本人だと気付かれずに精神が消滅し、入れ替わり相手も本来の身体に二度と戻れなくなるため責任重大ですよね。
どうして俺だけがこんなに怖いんだろう。きっと誰しもが難なくできていることなのに。暗闇に浮かび上がる白い天井が、眼球を覆う水分でぼやける。泣いてはいけない、と眼を見開く。こんなことで不安を感じていてはいけない。だって俺は普通の女の人がするように、最愛の人と結婚して家庭を持って、子供を産んで育てて母になって、そうやって生きていかなくてはならないのだ。普通にならなくちゃ駄目なんだ。こんなことで、怖がっている暇なんてない。
だって本当は分かっていた。激しい死への恐怖の根底に、この体は自分のものではないという認識があるということを。このまま俺が死んだら。俺は水村以外に真実を知られないまま、この体で死んでいく羽目になるのだ。そう考えるとぞっとした。
それだけではない。俺が死んだら水村は、本来の自分の体を永遠に失うことになるのだ。その重責に毎夜俺は押し潰されそうだった。
死の恐怖に怯えた陸(身体はまなみ)は、三年ぶりにまなみ(身体は陸)に連絡をしてしまいます。
まなみ(身体は陸)は何も聞かずに陸(身体はまなみ)を受け入れ続ける聖人です。まなみ(身体は陸)の心情は描写されていないので実際は何を思っているかわかりませんが。
↓しかしまなみの身体の妊娠を告げられたまなみ(身体は陸)の反応が軽いw
「お、俺、今実は妊娠してるんだ」
「え、そうなんだ!おめでとー」
「ああでも、ちゃんと大事に育ててあげてよね。私の子供でもあるんだから」
「は?どういうこと?」
「そりゃそうでしょー。だって私の体から産まれてくるんだもん。私の子供でもあるでしょ」
「マジかよ。その発想はなかった」
陸(身体はまなみ)はまなみの身体で死ぬことが怖いと伝えると、まなみ(身体は陸)も同じ気持ちだったと返ってきます。
↓二人は和解して和やかに会話を終えた後、本当の意味で決別というか、陸(身体はまなみ)がまなみ(身体は陸)から精神的に自立します。
「み、水村。やばい。今、蹴った」
「は?なにが?」
「子供!赤ちゃん!今蹴ったよ、腹ん中で蹴った!」
「え、ほんとに?ほんとに、赤ちゃんっておなか蹴るの?」
「蹴る!蹴ってるわ、これ!すごいよ、すごい脚力」
「ええーいいなあ、私もその感触味わってみたい。早く出たいって言ってるのかもね」
「おうおう、早く出てきてくれよ。母ちゃんはもうこの腹に飽きたよ」
「母ちゃんだって。うける」
「だって母ちゃんだもん、俺」
たぶん俺たちの人生はもうそれほど交わらない。きっと水村は産まれた子供の顔を見に来ることはないだろうし、俺も水村の結婚式に参列したりはしないだろう。でも、それでいいんだと思う。ただ俺たちは、また年に一度、七月に会う。会って話して、そしてまた来年ねと言って笑って手を振り合う。それだけで充分だ。それだけで俺たちは生きていける。誰かとの約束には、人を生かす力がある。
三十歳。元の自分の身体で生きた期間と今の身体で生きた期間が同じになった二人は、年に一度の約束の日にもう一度プールに落ちてみます。
↓元に戻りたいけど元に戻るのも怖いという二人の心情にくるものがあります。
もはや二人は元に戻ることを全く考えずにプールに飛び込んでいるのが最高ですね。
もっとも、陸(身体はまなみ)は元に戻っても、元に戻らなくてもどちらでも良いと思っているようですが。
煙草を吸い終えて、それでもまだ水村の横顔からは硬さが取れない。その緊張感は、夜の校舎に勝手に侵入する後ろめたさからくるものだけではもちろんないだろう。きっと、万が一の可能性に思いを巡らせている。そして、その可能性に恐怖心を抱いている。それは俺も同じだった。元に戻ることは、俺達の長い間抱いてきた望みだ。けれどそれが今は、こんなにも怖い。
恐怖心も緊張感も高揚もいつの間にか消えていて、不思議と凪ぐような静かな気持ちになっていた。ただ、やらなくてはならないような気がしていた。その結果どうなったとしても。
「じゃあ、行こうか」
俺が声をかける。水村が手をほどいて、そしてまた握り返す。
「うん、行きますか」
いっせーのー、せっ。
俺達は両足を屈めて、そしてプールへと飛び込んだ。
二人が元に戻るかどうかは誰にもわからないまま、元に戻る描写なく物語は終わります。
最後の二ページがかなりエモいので必見です。
『君の顔では泣けない』のタイトル回収をしたかどうかは、実際に読んで確かめてみてください。オススメの作品です。
おれがあいつであいつがおれで
| 作品タイトル/著者 | 簡単なあらすじ | 収録書籍/ソフト |
| 『おれがあいつであいつがおれで』 著者:山中 恒 | 小学生男女がぶつかって入れ替わる。 | ●角川書店 角川文庫 『おれがあいつであいつがおれで』 ●角川書店 角川つばさ文庫 『おれがあいつであいつがおれで』 (※他多数の出版社から刊行されている) |
※本項目の画像は、全て上記作品からの出典です。

小学6年生の斎藤一夫のクラスに、かつて幼馴染だった斉藤一美が転校してきた。
幼少期の恥ずかしい話をバラしていく一美に耐えられなくなった一夫は、「身がわり地蔵」の前で一美に体当たりをしたら入れ替わってしまった。
仕方なくそのまま生活をすることになった二人だが、異性の取り巻く環境に振り回されてばかり。

↑角川つばさ文庫バージョンが一番挿絵がかわいくてオススメです。
↓ということで、一美の部屋で目を覚ました一夫(身体は一美)。
一夫は身体が一美になったことには気が付かず、女装をさせられたと勘違い。
気がついたとき、おれは、見知らぬ家の、見知らぬへやの、ベッドにねかされていた。
――あれ?もしかすると……――
まちがいなかった。そこは、斉藤一美の家の、一美のへやだったのだ。つくえの上には、あいつの名ふだのついた、手さげがあったし、横にぶらさがっている、体操着のふくろにも、あいつの名前が、書いてあった。
おれの、いやな予感は、あたっていた。花がらのパンツどころか、あいつのオレンジ色のスカートまで、はかされていたのだ。
一夫(身体は一美)は一美の家を飛び出して、一夫の家へ帰ります。
↓もちろん、一夫の母親は突然家に上がり込んでタンスを漁る女の子を不審者扱い。
高い声を訝しがったり、スカートがスースーしたりするのが細かい萌えポイントです。
「ママ、落ちついて、しっかり、ぼくの顔を見てくれよ。ね。ぼくは、ママのむすこの、斎藤一夫だろ?わかる?」
「ふざけないで!あなたが、あたしのむすこのわけはないでしょ。あなたは、女の子じゃありませんか!」
「エエッ?」
↓一夫(身体は一美)は、一夫の母親に促されて、ようやく鏡を見ます。
一夫の母親は、一美の悪戯だと思って、入れ替わりを信じてくれません。
おれは、はっとして、息をのんだ。鏡には、あの憎い、斉藤一美がうつっていた。にもかかわらず、おれの姿がなかった。そして、なにかいったのも、斉藤一美だったのである。おれは、あわてて、鏡の中の、あちこちをのぞきこんだ。ない!おれの姿は、どこにもないのだ!
全体的に、女の子としての振る舞いを強要される一夫(身体は一美)の描写が非常に多かった印象です。
↓一夫(身体は一美)は、一夫の母親に、一美として座り方を注意されます。
そういわれて、おれは、なにげなく、自分の下半身を見た。しょうじき、おれまで、なんだから、はずかしいみたいな、へんな気分になった。おれは、いつものくせで、いすの上に、大あぐらをかいていたのだ。スカートはめくれて、ふとももが、むきだしになっているだけでなく、公明正大に、花がらのパンツをのぞかせて、またをおっぴろげていたのだ。おれは、あわてて、すわりなおした。
↓胸の膨らみに驚くシーンも好きですね。股間も触ってます。
全くエロい気持ちがなく揉んでしまうのが逆に妙なエロスを感じさせます。
そして、上半身、はだかになって、ひょいと胸のあたりを見て、高圧電流にふれたみたいに、とびあがった。
――ガアーッ!お、お、おっぱいがふくらんでる!えれえこっちゃ!――
おれは、おもわず、両手で、おっぱいをつかんで、もみほぐそうとした。
「いててて……」
これは、一時的にできた、はれものではないのだ。メリケン粉のだんごや、ねん土とちがって、もみほぐしたからって、ぺたんこになるものではないのだ。
――ことによると、あれは……――
おれは、目をつぶって、おそるおそる、手を下半身へずらしていき、パンツの中へ入れた。
「グワーッ!ない!ない!ないっ!」
とんでもないことになった。おれのだいじな、チンポコが、なくなってしまったのだ。
(中略)
さっき、力いっぱい、もみほぐそうとしたせいか、胸がいたくて、その上おっぱいの先っちょが、ひりひりした。
↓一夫(身体は一美)は慌てて一美の家へ戻ると、そこには一美(身体は一夫)が。
泣いていた一美(身体は一夫)は、一夫(身体は一美)を見つけて抱きつきます。
そして、いきなり、おれに……つまり、一美になったおれに、とびついて来て、いいやがった。
「ああ、あたしだわ!あたしだわ!一美の一美だわ!」
おれは、さむけがした。オスガキの声で、「ああ、あたしだわ!あたしだわ……」なんていわれて、なぜくりまわされたら、へんなもんだ。
一夫(身体は一美)は、一美の母親に「他人のおばさん」として話しかけたら、ふざけていると思われて張り飛ばされてしまいました(笑)
入れ替わりは信じてもらえそうになく、仕方なく二人はお互いの生活を交換することに…
↓自転車に二人乗りするシーンが美味しかったです。
おまわりさんに二人乗りを注意された一夫(身体は一美)は、かわいい女の子のフリをしてやり過ごします。萌えますね。
一美は、荷台をまたいで、うしろから、おれの胸に手をまわした。
「おい!よせよ。おっぱいの先っちょが、ひりひりするんだ。下のほうへ、手をやってくれよ!」
とたんに一美のやつが、うしろから、おれの背中を、バシッとひっぱたいた。
「一夫のエッチ!あんた、あたしの胸をいじったのね!」
「ちょっとまて!あたしの胸だと?そりゃ、もとはといえば、おめえの胸かもしれねえけど、いまは、おれにとっついてんだぞ。こんなもん、ほしきゃ、おめえにやらあ。そのかわりに、ちゃんと、チンポコをかえせ!」
「こらこら、女の子が、ふたり乗りなんかして、だめじゃないか」
「だって、あの、こいつのおふくろが、死にそうなんだもん」
おれは、口からでまかせをいった。
「しょうがないなあ!気をつけて行きなよ。本来なら、許さないところだが、しかたがない」
警官が、にっこりわらっていった。おれは、ちょっとへんだと思ったが、オスのおとなは、女の子にやさしいのを思い出した。そこでおれは、せいいっぱい、おあいそわらいをして、
「おまわりさん、どうもありがとう!」
といってやった。警官は、にこにこして、早く行けと合図した。
――そうか、いざとなったら、この手を使えばいいんだな――

↓一美の家に帰った一夫(身体は一美)は、女の子として家事のお手伝いをさせられたり、お行儀の悪い食べ方を注意されたり、着替えずに寝ようとして注意されたり…
他にも色々と細かい入れ替わりのネタがありますが、書き切れませんでした(泣)
「なにじゃないでしょう。一美。ママはね、あんたが、おしゃべりをしなくなり、シイタケまで、ちゃんと食べるようになってくれたことは、とってもうれしいことだと思うわよ。でも、その食べ方は、ちょっと問題よ。だれも、あんたのごはんをねらってるわけじゃないんだから、もう少し、女の子らしく、つつましく食べてくれないかしら。お味噌汁だって、ゾロゾロ大きな音をさせて、吸ってるじゃないの。感心しないわよ」
↓夜に、入れ替わった二人が電話をするシーンも好きですね。
口調について文句を言いあったり、トイレネタがあります。
「ワカッタ!あ、それで、思い出したけど、あれ、ときどき、形がかわるのね」
「なんだよ。あれって……」
「おしっこの出るところよ」
「ばかっ!そんなもん、いじくりまわすんじゃねえよ!」
「だってさ、おしっこしたあと、紙でふいたら、なんとなく、形がかわって……」
「バカ!紙なんかで、ふくやつがあるかよ!あんなもんは、二、三べんふりまわして、しずくをきったら、そのまま、しまえばいいんだ。へんなことをするなよ!」
「ワカッタ!でも、あんたのほうは、ちゃんと紙を使ってちょうだいよ」
「わかったって!」
↓短いですが、一夫(身体は一美)のトイレイベントもあります。一応着替えイベントもありました。
一夫(身体は一美)と一美の二人の兄との絡みもおいしいです。
「一美、パジャマが、うしろ前だぞ!」
「あ、そうか」
おれは、その場で、パジャマをぬごうとした。
「おい!いくら兄妹だからって、そう、男の前で、べろべろはだかになるやつがいるかよ!」
「あ、そうか」
おれは、そのまま、トイレへとびこんだ。しりをまる出しにして、小便をするなんて、幼稚園以来のことだから、なんとも、へんなぐあいだった。おれは、紙で、前をふきながら思った。
↓翌朝は、一美(身体は一夫)が一美の部屋に侵入して、一夫(身体は一美)に着替え指南。
一美の母親に見つかって、大騒ぎになってしまいました。
「なにやってんのよ!いきなりブラウスなんか着ちゃって!ちゃんと下にスリップをつけてよ。ブラウスのスナップがはじけたら、いきなり胸が見えちゃうじゃないの!」
いわれて、おれは、自分の胸を見た。
「見ちゃだめ!」
一夫(身体は一美)と一美(身体は一夫)は、喧嘩ばかりですw
入れ替わってから良いことがなく、一美(身体は一夫)は死にたいと打ち明けて、一夫(身体は一美)は焦ります。
しかし、後で一夫も一美の身体で自殺すると一美(身体は一夫)を脅しますw
お互いの身体が人質という入れ替わりならではの状況が最高ですね。
↓入れ替わった二人のわざとらしい男口調・女口調が面白くて良かったです。
「イイカゲンニシナイト、自殺スルゾ!」
「わかったワヨ」
入れ替わった二人はいまいち相手の演技をしないというか、入れ替わったことを忘れてすぐに素に戻ってしまうので、学校でもカオスなことに。
↓一夫(身体は一美)がスカートめくりをされて怒り、一美(身体は一夫)も怒って殴ってしまうという大惨事になってしまいました。
一夫が一美の姿のせいで、男友達からの扱われ方が変わるのも最高です。
そのときだ。おれのしりのほうが、すうっとすずしくなった。見ると、これも、おなじクラスの佐久井健治のやつが、へらへらわらっていた。佐久井が、おれの……いや、一美のスカートをめくったのだ。
学校では、二人の成績の差により問題が起きたり、色々あって逃げ出した一夫(身体は一美)が階段から落ちて校長先生にぶつかって入院したり…
一夫(身体は一美)ではなく、一美の身体の怪我を心配する一美(身体は一夫)が好きw
↓やはり、一夫(身体は一美)は校長先生にも女の子として説教されてしまいました。
校長先生に「かわゆーい女の子」と言われる一夫(身体は一美)が笑えますw
「いいかね、斉藤一美さん。こんどの事件のそもそもは、あんたが女の子なのに、暴力をふるったことにある。理由はいろいろあろうが、女の子が暴力をふるうなどということは、どう考えても感心できない」
「そんなこといったって、ぼくは、もともと男なんだし……」
「おだまりなさい!女の子が『ぼく』とは、なんでありますか!女の子は『わたくし』または『わたし』といいなさい!」
「だから、ワタシは、もともと男なんですから……」
「いいかげんにしなさい!あんたは、りっぱな女の子です。かわゆーい女の子です」
「ですから、その、外見は、そうだけど、なかみは、オスガキなんです」
「なにをつまらんことをいっておられるのでありますか。そりゃ、活発なのは、よろしい。しかし、なんといっても、あんたは女の子なんだから、<やさしさ>を大事にしなければいけない。いいかね。あんたは、やさしい、しとやかな娘さんになって、いい人を見つけてお嫁に行き、やがて、かわいい子どもを産んで、お母さんになる……」
「そんな!じょうだんじゃない」
↓そして、生理になってしまった一夫(身体は一美)は、学校の宿泊合宿を欠席。
慌てる一夫(身体は一美)が最高ですね。
「お、お、お、おれが、こ、こ、こ、このおれが、セ、セ、セ、セイリになっちまうのかよ!」
「そうよ」
そして問題の日が来た!
おれは、すっかり、めいってしまった。へんに腰から下が、かったるいみたいで、気がつくと、ぼうっとしていた。もし、このまま、おれが、斎藤一夫のからだに、もどれないとしたら、どうしようか……などと思うと、いても、たってもいられないほどだった。
そんなおれに、一美のおふくろがいった。
「きちんと生理があるということは、健康だということなのよ。いい?そんなふうに<あたしは、ただいま生理です>なんて顔をしちゃ、だめ!」
「そんなこといったって……」
この辺りで、一夫と一美は一緒にいることが多くなりすぎてお互いの母親に心配されてしまい、接触禁止に。
一美(身体は一夫)は、性転換手術のことも考え始めます。
↓一美(身体は一夫)が元の一美の身体を懐かしがって、一夫(身体は一美)の胸を触っていると、そこに不良の中学生が…
騒いだ一美(身体は一夫)は、中学生に股間を蹴り上げられてしまいました。
「あたし、このからだに、もどりたい!」
そういうと、一美のやつは、おれのからだをなぜまわした。そして、おれのオッパイ……いや、一美のオッパイかな……そのへんは、よくわからないが、とにかく、おれの胸についているオッパイをそっと押さえた。
さすがに一美も、だいじなところをけられて、ひめいをあげ、からだをまるくして、地面にたおれこむと、苦しそうに、地面をごろごろころげまわった。
それを見ていたら、おれは、きゅうにむかついてきた。地面をころげまわって苦しんでいるのは、なかみは一美でも、なんたって、見た目はこのおれ、斎藤一夫なのだ。
元の一夫の身体を痛めつけられた仕返しに、一夫(身体は一美)は中学生の股間を3発も…w
見た目的には女の子が男の子に股間を蹴り上げられた時の対処法を教えている図が最高です。
「一美」の評判は、一夫(身体は一美)のせいですっかり男勝りでガサツな女の子になってしまいました。
↓一夫(身体は一美)が「一美」として「一夫」の評判を上げようとするのも面白いです(笑)
「やっぱり。あんなふうで、一夫君は、やっぱり男の子なのね」
「そうよ。あれでも、いざとなればやるノヨ。だからママ、あとで一夫君に、お礼をいっておいて。ネ、お願いヨ」
↓一夫(身体は一美)が水着を買いに行くシーンも、一夫本人には全くエロい気持ちは無いですが、食い込み描写が個人的にエッチでした。
おれは、風呂場の脱衣室で、水着に着がえてみた。ほんとに、水着は小さくて、きつかった。ただきついくらいならいいけど、うしろは、ふんどしみたいに、きゅうっとくびれて、しりへくいこむし、前も、われめへくいこんで、いかにも、そこにわれめがありますというみたいになっていた。
↓ここでも、一夫(身体は一美)は一美の母親から女の子扱いをされたり、元に戻れなくなることを心配したりとおいしいです。
一美(身体は一夫)が一夫(身体は一美)に新しい水着を見せようとして、うっかりポロリしてしまうシーンもあります。
「だいじょうぶね。あなたは、ママの子どものときより、ずうーっと美人よ。すてきな娘にそだってくれるわね」
「…………」
おれは、なんとへんじをしてよいか、困った。
「そして、いいおむこさんを見つけて、いいえ、いいおむこさんに見つけてもらって、幸せな花嫁さんになるのよ」
ほんとに、おれは、あせった。おれは、一美がどんなむこさんのところへ、嫁にいこうと、しっちゃいないし、どうでもいいことだったけど、もし、おれが、もとの一夫のからだにもどれなくて、そのまま、おとなになって、だれかのところへ、嫁さんにいくなんて思ったら、落ち着かなくなった。
もし、それが一美にとって、しあわせなことだとしたら、そうなれない一美は、ひどくかわいそうなことになってしまう。
その後、「一美」の誕生日会ということで、一美が片思いしている山本弘と、一美の女友達の吉野アケミがやってきます。
一夫(身体は一美)は、一美(身体は一夫)に言われて弘に気に入られるように振る舞わなければならなくなりました。
途中で一美(身体は一夫)が社会の窓を閉めようとして股間を挟んでしまい、痛がる小ネタが良いですねw
↓一夫(身体は一美)が一夫の身体でも弘君ラブな一美(身体は一夫)をからかうために、女の子らしさを見せつけるシーンがなかなか残酷です(笑)
一夫(身体は一美)が一美(身体は一夫)に、女の子らしい仕種の厳しいレッスンを受けるシーンもあります。
「へっ!いまのじぶんを考えてみろってんだワサ。それで、弘とかいうガキにべたついたんサイヨ、おめえ……アンタ、ホモかあって、いわれるワヨ!」
一美は、さすがに、ぎょっとなって、おれの顔をじいっと見た。おれは、そこで、いかにも女の子らしく、自分のワンピースのすそをつまんで、右足を引いて、首をかしげてほほえんで見せた。みるみる一美の目に、涙がもりあがってきた。
そして、一足先にアケミが登場。
↓アケミは一美(身体は一夫)から入れ替わったことを聞いていたらしく、一夫(身体は一美)をからかって胸を触ってきます。
(アケミは異性よりも同性が好きな女の子のようです。)
「ねえ、あんた、ほんとは一夫君なの?」
「うん!」
おれは、思わずへんじをしてしまった。
「やっぱり!」
そういうと、アケミは、まるで、めずらしい生きものでも観察するような目つきで、おれを見ながら、おれのまわりを、ぐるっとまわった。そして、もとの位置へもどると、やにわに、おれの胸をつかんだ。
「いてえ!へんなことするなよ!」
おれは、あわててアケミの手をふりはらった」
「だって、ほんもののかどうか確かめておかなくちゃ」
そういうより早く、アケミは、こんどはおれのワンピースのすそをつかんで、ぱっとめくった。
「おい、よせってば!」
アケミはワンピースのすそをはなして、にこりともせずにいった。
「ふうーん。確かに、ブラッとしたものは、ついてないみたい」

↓一夫(身体は一美)が一美のフリをして弘に絡んだり、弘は一夫(身体は一美)を「一美」として扱ったり、弘が一美(身体は一夫)を「一夫」として敵視したりと、色々とおいしいです。
「そんじゃ、いっちょ一美をやってくるか」
おれは、大いそぎで、笑顔をつくり、その男の子のところへ、はしっていった。
「シバラク!よく来てくれたワネ!」
そういって、おれは、おしえられたとおり、弘とあく手した。
「一美さん。きみ、こういうらんぼうなボーイフレンドとはつきあわないほうがいいんじゃないの?」
といって、おれの両かたに手をかけた。おれは、ここぞとばかり、弘のかたに顔をつけた。そしたら一美のやつは、また、かっとなって、おれの足をけりやがった。
その後も、入れ替わった二人をからかって面白がるアケミが最高でした。
一美(身体は一夫)はふざけたアケミにキスまでされてしまいます。
アケミはからかいつつも、ボロを出した二人のフォローが上手でかなり好きなキャラですね。
一美(身体は一夫)の方も、一夫の立場から見た弘が思ったよりも意地悪で愛が冷めてしまうのでした。
後は、個室のトイレに入る一美(身体は一夫)がクラスメイトの男子にからかわれて裸にされて不登校になったり、入れ替わった二人が相互理解していい雰囲気になったりします。
「一夫」のイメージを台無しにしてしまったと謝る一美(身体は一夫)を許す一夫(身体は一美)が優しいです。
元に戻れないことも考えて、お互いの将来について聞くシーンも熱いですね。
二人は6年生になったばかりの頃に入れ替わり、既に季節は冬になってしまっているようです。
そんな時、3月に「一夫」が引っ越しをすることになってしまい…
クラスメイトの川原敬子は、「一夫」と「一美」の様子がおかしいことに気がついていて、一夫(身体は一美)に接触してきます。
↓他は、興奮した?一美(身体は一夫)が「一美の身体」が見たいと言って一夫(身体は一美)に触るシーンがありました。
嫌がりながらもちょっと感じてしまうような一夫(身体は一美)のリアクションが最高です。
一美(身体は一夫)にキスされた一夫(身体は一美)は、その場から逃げ出して…
「あたし、あたしのからだが見たいの」
おれは、あわてた。
「ちょ、ちょっと待てよ。そりゃ、ま、これは、おめえのからだだけど、い、いまはおれのからだなんだから。それに、ちゃんときれいにしてるから、心配するなよ!」
「でも、見たいのよ!」
そういうと一美は、たちあがって、おれのところへとんでくると、いきなり、おれの胸をつかんだ。
「いたいっ!」
「ごめんなさい!」
一美は、力をぬいて、その手で、いたわるように、おれの胸をなぜた。おれの胸の奥が、きゅんきゅんといたんで、しびれるみたいだった。
(中略)
一美は、おれをいすにおしつけるように、両かたをつかんだ。と思ったら、いきなり、おれにキスしたのだ。
おれの頭がぼーっとして、しびれたみたいになった。
「一夫」の引っ越しが早まって焦っていたら、また偶然頭をぶつけて二人は元に戻ります。
一美は一夫の身体でミントのタブレットを食べていたところだったので、元に戻ってから一夫が口の中にミント味がするというところが興奮しました。
↓元に戻った一夫と一美は相思相愛でハッピーエンドです。二人とも元の自分の身体を確かめるシーンが最高でした。
一夫は念願の立ちションができて嬉しいようです(笑)元に戻ってからもおいしかったです。
おれは、あわてて、一美をつきのけ、自分の胸に手をやってみた。おれの胸は、たいらだった。それから、はずかしいけど、いそいで、ベルトをゆるめ、ズボンの中へ手を入れ、男のしるしがあるかどうか、たしかめた。あった!まちがいなく、ついていた。
一美も、おなじように、おれに背中をむけ、からだをこごめるようにして、パンツの中へ手を入れてたしかめていた。
「おい、ついてたか?」
「ついてない!なくなってる!」
カノン
| 作品タイトル/著者 | 簡単なあらすじ | 収録書籍/ソフト |
| 『カノン』 著者:中原清一郎 | 末期ガンの中年男性が、子持ち女性と脳移植で入れ替わる。 | ●河出書房新社 『カノン』 ●河出書房新社 河出文庫 『カノン』 |
※本項目の画像は、全て上記作品からの出典です。
末期ガンで余命一年の寒河江北斗(58歳)と、記憶を失う難病の氷坂歌音(32歳)。
北斗は延命のため、歌音は子供のために、脳間海馬移植によって入れ替わることになった。
歌音になった北斗は、母親の歌音として子供の達也と向き合うことに…
両者合意の上での入れ替わりで、家族や友人に同意を得たり、お別れを言ったりする時間が設けられているのが今作のポイントです。
周囲はそれぞれ賛成したり、反対したり、色々な表情を見ることができます。
入れ替わった両者は、元の自分の家族とは完全に縁を切り、入れ替わり相手の人生を引き継ぐことが法律で決められているようです。
作中では、米国での高齢男性と若い男性の入れ替わりと、日本での43歳女性と27歳男性の入れ替わりについて触れられていました。
全体的に、医学用語や人体の機能のオリジナル設定が少々難解だった印象です。
同性と入れ替わるとばかり思っていた北斗が、若い女性と入れ替わると聞いた時の驚きが好きですねw
北斗は性転換手術で男性に戻りたいと言いますが、歌音の「代わりに子育てをして欲しい」という要望を飲まなければ手術を受けることはできません。
妻として、母親として生きなければならないことに不安を覚えつつ、末期ガンで余命わずかな北斗は延命のために手術に同意します。
北斗には妻・佐和子(53歳)と娘・カオル(30歳)と母親・千代子(83歳)がいたため、二人に脳移植術のことを話します。
佐和子は北斗の決定を尊重し、カオルは面白そうだと賛成。
北斗は、カオルとは入れ替わった後にこっそり会えるように、秘密のジェスチャーを取り決めます。
他にも、北斗は接触を禁じられていない友人の篠山に手術を受けることを伝えます。
歌音はジンガメル症候群という記憶が徐々に薄れていき、最後には赤ちゃんレベルまで退行してしまう難病を患っています。
歌音は息子の達也(4歳)のために、北斗に母親の役割をバトンタッチしてほしいと強く思っており、夫の拓郎(34歳)と母親の和子(63歳)も同意しているようです。
歌音は死にそうな北斗の身体に入れば、今の家族に看取られて死ぬこともできないわけですが、それほどまでに達也のことが大事らしい…
↓脳移植手術のことを歌音から聞いた拓郎が葛藤する描写が良かったです。
歌音はこのままだとどうせ死ぬから、身体だけでも生かしたいという考えのようでした。
歌音も、女友達の紗希には手術のことを伝えます。
だが、歌音の海馬が、だれか死にゆく人の体に移植されるなど、とても耐え難い話だった。
「五十八歳、ですか。われわれの両親に近い世代ですね。新しい歌音は、ぼくのオヤジみたいな感じ方、考え方をする人間になってしまうわけか。どうにも、やりきれない話になってきました」
↓ということで、歌音の脳に北斗の海馬を移植し、北斗は歌音の身体になります。
入れ替わり直後から、北斗(身体は歌音)は徹底的に歌音として扱われます。
入れ替わった両者の接触も法律で禁止されているため、しばらく歌音(身体は北斗)は出てきません。
とそのとき、北斗は自分の後頭部に、あたたかな感触があることに気づいた。目の端に、黒くふさふさしたものが見える。これは、髪じゃないか。ガンの治療を受けてから、俺はずっと禿げたままだったはずだ。長く寝ている間に、また生えてきたのだろうか。
だが、幾本かの点滴チューブがぶらさがる腕を恐る恐る曲げ、さっきから気になっていた重い胸元を指でさわると、寝ていても両胸が上に丸く盛り上がり、その先端に、ツンと尖った乳首があった。北斗はぎくりと指先の動きを止め、驚いて両掌を頬にあててみた。すべすべと滑らかな肌をしている。その手は指先まで長く、思いがけないほど、ほっそりとしていた。
「お目覚めですね、氷坂さん。もう話せるようになったんですって?でも、まだ脳に負担がかかるので、もうちょっと休みましょうね。そうだ、みんなは、あなたのこと、歌音って呼ぶんでしたね。お休み、歌音さん」
北斗の意識はまたそこで、途切れた。
北斗(身体は歌音)は、歌音になりきって過ごすために、非常に厳しいスパルタのレッスンを受けます。
↓歌音の細かすぎる癖はもちろん、女性らしい話し方・仕種、化粧などを徹底的に叩きこまれます。
無理やり後天的な性同一性障害のような状態にされた北斗(身体は歌音)にはかなり酷な特訓…(苦笑)
「これが、「でもね」という発声の波長です。以前の歌音さんは、「でも」の後で、「ね」を少し上がり気味にして、すぐに音を切ります。新しい歌音さんのほうは、そうここで間延びして、語尾もさらに低く伸びてしまう。もっと軽く、それから、母音をもっときびきびしないと」
(中略)
「これが驚いたときの彼女の癖なのね。歌音は、「あっ」とか「えっ」というときに、必ずこうして小鼻をふくらませる」
↓北斗(身体は歌音)が厳しすぎる練習に耐えかねて泣きごとを言ったら、平手打ちされたのは流石にかわいそうになりました。
まぁ、事前に歌音になりきることに同意して入れ替わっていますし、北斗(身体は歌音)がここで諦めたら手術に同意した全ての人の思いが無駄になるわけですが。
「わかります。でも、なぜこんなことまでして。そんなことなら、あのまま死んでいたほうが、まだ……」
その言葉が終わらないうちに、田代の右手が歌音の頬を打っていた。乾いた音が室内に響き、全員が息をとめた。打たれて赤い指の後が残る頬をさすりながら、ふと怯えた表情になった歌音から、田代は目をそらさなかった。
「あなた、もう二度とその言葉を口にしちゃダメ。そうすれば、あなたはよくっても、歌音を傷つける。あなたは、いったん入ったらもう引き返せない道に、自分から望んで入っていったのよ。その道を歩いているのは、あなただけじゃない。あなたの子どもと、あなたの夫が一緒に歩いているのよ。あなただけ引き返したら、その子はこれからどうするのよ」
↓しばらくして、拓郎と和也の元に帰ってきた歌音(中身は北斗)は、厳しい特訓のおかげですっかり歌音そのもの。
北斗(身体は歌音)は「北斗」の意識を無意識下に押し込め、「歌音」そのものとして振る舞う技術を身につけたようです。
その日の午後、歌音は帰ってきた。
「あら、達ちゃん、こんなに大きくなって。重そう。ママ、抱けるかしら」
玄関で靴を脱ぐと、歌音は飛び込んできた達也を持ち上げ、頬ずりした。
(中略)
「あなた、久しぶりね。会いたかった」
目が合ったとき、拓郎は一瞬、歌音に何事もなく、以前のまま帰還したように錯覚した。少し頬が丸みを帯びたような気がするが、声音も話し方も、以前の歌音のままだった。
移植したのは北斗の海馬だけのため、脳の他の部位や身体に残る記憶は歌音のまま。
精神と身体がお互いに干渉して新たなアイデンティティとなる「干渉現象」が本作の主題なので、北斗と歌音の人格は混ざり合い、徐々に新たな「カノン」となっていきます。
混ざり合う途中は二重人格のようにになっており、時々歌音本人の人格が前面に現れて、北斗(身体は歌音)のピンチを救ってくれます。
↓「北斗」が知らないはずの出来事でも、「歌音」の身体が覚えているため、既視感を覚えるという描写も何度もありました。
基本的には、地の文では北斗(身体は歌音)は「歌音」として扱われ、北斗として考えるときだけ「北斗」と呼ばれます。
ずっと以前、こうして達也を風呂に入れた記憶が、漣のように小さく、歌音の体に広がっていった。
「不思議だ。はじめてなのに、なぜそんな気がしないんだろう」
そう思うと、ふと、北斗の意識が目覚めた。
↓北斗(身体は歌音)が歌音の身体にエッチな目を向けると、「歌音」の意識が話しかけてきて、そういうイベントはキャンセルです(苦笑)
脱衣所に出た歌音は、バスタオルを胸まで巻いて、別のバスタオルで濡れ髪をしごいた。脱衣所には、大きな鏡があった。歌音はまず顔をじっくり眺め、それから、バスタオルを外して全裸になった。
歌音が自分の肉体をじっくり眺めるのは、はじめてだった。なだらかな肩から、次第に両方の乳房が丸く盛り上がって弾力のある均整な山となり、その頂点で乳首が、つんと上を向いている。乳輪はまだピンク色をして、艶やかだ。出産して腰は少し丸みを帯びてはいるが、くびれはまだ、しっかり締まっている。歌音は次第に視線を下におろし、きれいな三角に広がる秘所を見つめた。そのときだった。
「やあね、やめて。そんな目で見るの。すっかりいやらしい目になってるわよ、歌音」
北斗の意識は、確かにその声を聞いた。狼狽したまなざしで思わず周りを見回したが、脱衣所にいるのは歌音だけだった。
↓北斗(身体は歌音)は、達也の母親になることは心に決めていますが、拓郎の妻になるつもりはないようです。
完璧な演技からの突然の自己紹介に、拓郎の心情もやりきれない感じがして良いですね。
「ご存じでしょうけど、私は手術前は五十八歳の男でした。必要がないので、名乗りませんが、ある広告会社で働いてきた人間です。こうして歌音さんの体に棲むことになりましたが、意識や記憶は元のままです。達也くんの前では、歌音になって振る舞いますが、あなたと二人のときにどうするのか、あらかじめルールを決めておきたいのです。
拓郎に向かって、北斗の意識があらわれるのは、それがはじめてのことだった。拓郎は深い溜息をつき、現実の重さを全身で受けとめるように、うなだれていた。
↓拓郎に夜の営みを誘われそうになりますが、北斗(身体は歌音)は気が動転して嘔吐し、ナイフを持ち出してしまったので、そういうイベントはキャンセルです(苦笑)
「拓郎を愛している歌音の身体の記憶」よりも、北斗の意識の方が勝ったのでしょうか。
中身が58歳男性だとわかっていて襲う拓郎も拓郎ですが、これから一生拒否されると思うと拓郎もちょっとかわいそうですね…
暗闇の中で、歌音はふと目覚めた。背中のすぐ後ろに、覆いかぶさるように拓郎の肉体があった。拓郎は唇を近づけ、歌音のすぐ近くに押し当てた。熱い吐息に、歌音は身をかたくした。そのまま拓郎の舌先が、歌音の首筋をおりていった。拓郎は右手を伸ばし、歌音のパジャマのボタンを一つひとつ外した。前をはだけると、その指が大きく張りだした乳房をとらえ、先端にそそり立つ乳首をつまんだ。歌音は自分の腰のあたりに、大きく堅くなった拓郎を感じた。
↓元々の北斗は、飲酒も喫煙もしていなかったようですが、歌音の身体のせいか平気になる描写が良かったです。
自分でも意外だったが、拓郎がビールを飲むのに付き合っているうちに、下戸だった北斗も、無性にビールを欲するようになった。いや、意識の上ではまだ嫌がるのだが、体や喉がほしがる。これは煙草も同じで、コンビニの棚で煙草のパッケージを眺めるうちに、思わず特定の銘柄の名を口にし、買ってしまっていた。自分では吸いたいという意識もないのに、久しぶりに火をつけて大きく吸い込むと、頭がクラッとして、その後に頭の痺れがやってくる。鈍痛のように体に響くのに、その痛みがある種の快感を伴っていて、歌音はまた、喫煙を始めたのだった。
↓歌音の身体のせいか、男性の臭いや視線に敏感になる描写もあります。
北斗の男性としての性欲は、女性の肉体のせいでアンバランスになっているようです。
女性用トイレに入って化粧直しをするシーンもありました。
男だった北斗が、こんな臭いを感じたことは、かつてなかった。歌音の体になってみると、異性に対する嗅覚のセンサーが数十倍にも拡張されて、微細な臭いもくっきりと識別された。男は自分が発散する臭いに敏感だが、異性の立場になると、こうも嗅覚が鋭敏になるものだろうか。
北斗は、以前とは違って、男たちに対する生理的な嫌悪感を覚える自分に気づいた。自分の意識が歌音の体に入ってから、車内の男たちのぎらつく欲望の視線を肌に感じ、本能的に身構えてしまうためだろうか。
ふと視線を漂わせると、ドアの近くで両肩をむき出しにしている若い女性の姿が目にとまった。男のままの北斗の意識はふと、その肌に惹かれ、視線を吸い寄せられた。だが、一瞬通り過ぎた欲望の影は、その細い糸を手繰り寄せていくと、どこにも実体がなかった。ちょうど釣りで当たりを感じ、あわてて竿を撓らせてピンと張った糸をあげると、何もかかっていないのと似ている。
広告代理店勤務の北斗は、いきなり女性向けファッション雑誌の編集者の歌音として働く羽目に…
身体の方の家庭に順応しなければならないのはともかく、職場まで身体の方に合わせるのはかなり厳しい条件です(苦笑)
「何もかも身体の方に合わせないと本人が混乱する(意訳)」という理論のようです。
北斗(身体は歌音)は、ファッションのことはわからずに部署異動になりますが、元々の北斗の得意先や得意分野を利用して評価されていきます。
↓「新しい歌音」を気に入らない同僚女性たちに、鎌をかけられて虐められるシーンもありました。
「今朝、K先輩は麻のジャケットとタイトスカートに黒靴、ベージュのブラウス姿。ファッションについて感想を言うと、「口に出していうのは失礼」とのこと。「前にK先輩の仕事着をチェックするよう言われた」と言うと、「そうだったわよね」と慌てる。アドバイスを求められ、「スミレかパープルのプーティを」と言うと、すっかり真に受けた様子。ファッション・センスはゼロ。今日のK先輩度、マイナス1。いや、マイナス3点をあげてもいいかもね」
↓元々の取引先の男性に「歌音」として近づいた北斗(身体は歌音)は、「北斗」との扱われ方の違い、つまり女性として見られることに嫌悪感を覚えます。
北斗は、橋本については表も裏も知り抜いていた。だが、男女の関係になると話は別だ。
(中略)
おそらく、北斗が橋本と同性のままであったら、その変化には気づかなかったかもしれない。だが、橋本の視線が若い外見の自分に向けられていると肌で感じて、北斗の意識は内心、鳥肌が立つようなおぞましさを感じた。
(中略)
この橋本だって、自分が北斗だとは知らず、若い歌音に言い寄ろうとしている。自分だって、その外見との落差を使って、旧知の橋本を利用しようとしているのだ。そう思うと、北斗は、自分がたまらないほど惨めで、卑劣に思えた。
北斗(身体は歌音)は、積極的に子育てに関わってこなかったのもあり、達也の相手は難航し、家庭の方にも問題が起こります。
北斗(身体は歌音)と歌音本人のやり方が違うため、不信感を抱いた達也は、友達とトラブルを起こしたり、家出をしたり…
↓北斗(身体は歌音)は達也と真剣に向き合ううちに、新しい歌音として成長していきます。
北斗の意識が歌音に染まっていくのが良かったと思います。
「そうね、手術してからの私、昔の意識が歌音の体を馴らしてきたっていうより、逆のような気がするわ。達也のために生きようとする彼女の力が、私よりも数倍強くって、本物のうたにあわせて、わたしの意識が変わってきたような気がする。もちろんいまでもこうして女ものを着て、女言葉を遣うことに、まだ違和感を感じることはある。でも女にはなれなくても、母親になることはできると思う。だから前を行く歌音の背中を見ながら、彼女からはぐれないようにしよう、見失わないようにしよう、って必死なんだ。だから、他人からどう見えようが、私には、もう関係ない。わたしは、わたし。そう思えるようになった。これって、歌音がわたしになったの?それとも、わたしが歌音になったの?」
北斗(身体は歌音)は、以前の北斗や、以前の歌音と関わりがあった家族や友達とも関わります。
精神=本人とする人物と、身体=本人とする人物でそれぞれ考え方が違ってくるのが面白いです。
歌音の女友達の沙希や、北斗の男友達の篠山、北斗の娘のカオル、歌音の母親の和子との絡みがありました。
北斗の男友達の篠山との絡みが、男同士の会話をしていて個人的に好きですね。
↓すっかり女性らしい仕草が板についた北斗(身体は歌音)を見た篠山が、入れ替わったのを信じられないシーンが良かったです。
北斗(身体は歌音)は、男口調にする方が、逆に違和感があるようです。
北斗(身体は歌音)が「歌音」について他人事のように話すのに興奮しました。
「私、あなたの友人の北斗なんです」
その言葉に、篠山は息を呑んで天井を見あげ、絶句した。まさか。すでに北斗が手術を受けたことは佐和子本人から聞いていたが、ほんとうにその「女性」にすり替わったとは思えない。それに、妙に他人行儀で話す口調も、かつての北斗らしくないではないか。
(前略)
ほんとうは彼女、「ファッション・ネクスト」っていう女性雑誌に在籍していたのですが、最近クビになって。それもそうですよね。私にそんな役が務まるはず、ないですもの」
篠山は、「彼女」という言葉を聞き逃さなかった。やはり、目の前の女性は、北斗なのか。
「生ビールください」
篠山は呆気にとられて歌音の顔をみた。
「おまえ、いや、きみ、酒を飲むんですか」
歌音は恥ずかしそうに微笑んだ。
「ええ、彼女、酒飲みなんです。それに、煙草だって吸います」
篠山は天井を仰ぎ、大きく溜め息をついた。
「ちょっとわからなくなってきた。前の北斗は酒がダメで、手を出さなかったじゃないか。前のままなら、酒も敬遠するのが普通じゃないですか」
歌音は微笑み、運ばれてきた生ビールを嬉しそうに手にして、乾杯を促した。ごくん、と喉を鳴らして三分の一ほど飲み、グラスをテーブルに置いた。
「体が望むんです。初めは嫌々だったけど、最近は晩酌が待ち遠しくって。やだ、恥ずかしいです」
「初めは、彼女がもといたファッション雑誌に配属されたんです。でもトラブルばかりが続いて……。だって、彼女みたいな知識もセンスもないし、「戦う冬色がおしゃれを救う」なんてコピー、思い浮かぶはずないですもの。ファッション雑誌や本もたくさん読んだけれど、まさ、俺にそんなことできるはずがない。あらやだ、ヘンですねえ、こんな言葉遣い」
元の北斗の家族との接触を禁じられている北斗(身体は歌音)ですが、娘のカオルに一目会いたくて「歌音」として接触します。
↓カオルは北斗の精神を「北斗」だと思っているようで、歌音の精神が入って死にそうになっている北斗の身体の見舞いにはあまり行かなくなってしまったようです。
一方、北斗の妻の佐和子は、北斗の身体を「北斗」だと思い、うわ言で達也の名前を呼ぶ歌音(身体は北斗)を変わらずに看病しているらしい…
カオルと事前に取り決めていた秘密のジェスチャーをしてネタ晴らしをするシーンが最高でした。
「うん、亡くなったわけじゃないけど、いまは意識が薄れて、余命幾ばくもないっていうところかな。でもね、いまの父は以前の父ではないの。別の人の意識になっているから、別の人ね。だからわたしも、最近は病院にもあまり見舞いに行かなくなった」
「うん、でも母は強い人だから、わたしみたいに弱音は吐かない。母は、意識は別人と代わっても、父は父だからといって、毎週病院にお見舞いに行くわ。おかしいよね。母にとって、父は意識じゃなく、肉体なんだわ。娘にとって、父は体じゃなくて、意識なのにね」
「お父様はいま、どんなご容態なんですか」
「そうね、すっかり衰弱して、声をかけても反応がないみたい。でも時々、あっ、て思うぐらい体を力ませて、何かを叫ぼうとするみたいなの。きっと、その人、子どものことが気になって、夢を見ているのね」
やはり、歌音の記憶は、病んだ老体に棲み付いたいまも、達也のことを考え続けているのだろう。
↓歌音の母親の和子は、北斗(身体は歌音)を「歌音」として扱い、再会に喜びます。
中身が58歳男性だと知りながら、一緒に温泉に入る和子の心境は一体…
北斗(身体は歌音)が和子に気持ちを伝えるシーンが良かったです。
「わたしはね、あなたの母親でしょ。さっきあなたを一目見たときから、やっぱり、わたしの歌音が帰ってきた、って思った。ほんとはね、昨日まで、歌音でなくなっていたらどうしよう、って心配で、よく眠れなかったのよ。でも、やっぱりわたしが思ったとおりだった。そうやって驚いたときに、小鼻をふくらませたり、さっきみたいに心を言い当てられて伏し目になったり、ちっとも変っていない。あ、やっぱり歌音だった。こんな表情をする子なんて、世界中探したって他にどこにもいない。母親って、そんなものよ。それに比べたら、あなたの過去なんて、どうでもいいの」
(前略)
さ、まずはお湯を浴びようか」
その和子の声に、歌音は一瞬、ためらいの表情をみせた。しばらくして、和子がククッと笑いを洩らした。
「ばか、なあに考えてんのよ。わたしたちは母娘で、わたしはもう、オッパイも垂れたお婆ちゃんだよ。昔のおまえなんか、服と一緒に脱ぎ捨てちゃいなさい」
「でも、わたし、なんだか後ろめたい気がして……。せっかくお母さんが産んで、大事に育てた歌音を、わたしが横取りしてしまうような気がしてた」
昨夜言えずにいた言葉を、ようやく歌音は口にした。
「でもあなた、もう引き返すつもり、ないでしょ?」
↓北斗(身体は歌音)は、篠山から歌音(身体は北斗)の悲惨な容態を聞き、会いたくなってしまいますが…
「うん、はじめは会話もできていたらしいが、目を覚ますと、いつも決まってだれかの名前を呼ぶそうだ。どうも残してきた息子のことらしい。タッちゃん、っていうんだそうだ。それで佐和子さん、「大丈夫、安心して。タッちゃん、元気にしてるよ」って言って、慰めるのに必死になった。「おかしいでしょ、こんな話。でも、わたし、目の前にいる人が北斗じゃなくて、男の子をもった自分の娘みたいに見えてきたんです」。佐和子さん、自分でも不思議そうに、そう言うんだ。最近では意識が薄らいで、ほとんど話もできなくなった。でも目を開くと、その息子を目で捜し回っているような気がして、佐和子さん、思わず手を握りしめるらしい」
↓案内役の黒沢健吾が、実は日本での脳移植手術の第1例目で、中身は中年女性だったと明かされたのが衝撃でした。
「いまの歌音さんの気持ちも、寒河江さんの気持ちも、痛いほどよくわかります。私は、海馬移植手術の一例目でした。私も、一目あの人に、自分に会っておきたかった」
黒沢の助けで、北斗(身体は歌音)は拓郎と達也と共に、歌音(身体は北斗)のいる病室へ…
↓北斗の身体は喋ることもできず今にも死にそうで、かなり悲惨です。
達也が、思わず後退りした。ほとんど頭髪が抜け、禿頭に幾筋かの白い毛を残した北斗の顔は、眼窩と頬が落ち込み、薄く冷たい皮膚が黄色くなって頬骨を浮き彫りにしていた。かすかに開いた目に表情はなく、睫の先端には、溜まった目脂が乾燥し、黄色い粒になってこびりついている。
歌音は、ハンカチを唾で濡らし、その目脂を拭った。病床の北斗の姿は、痛々しいほど変わり果て、自分でもその顔を直視するのが辛いほどだった。
↓北斗(身体は歌音)は拓郎と達也が、一言ずつ歌音(身体は北斗)に言葉をかけていくシーンが最高に熱かったです。
達也は初めて会う赤の他人の病床に伏す姿を見て、帰りたいと愚図りだすので悲惨…極めて残酷になっています。
「今日はねえ、達ちゃんと、拓郎を連れてきたよう。二人とも、ちっとも変わってないよね。見える?見えたら、まばたきして、合図して。まばたきしてえ」
天上を見上げたままの北斗の眼球が、かすかに動いたかのように見えた。だが、まばたきはせず、何度試しても無駄だった。
「さあ、ひとりずつ、挨拶するからねえ。よく見るんだよお」
歌音は一語一語大きな声で区切りながら片手を伸ばし、指で招き寄せるような身振りをして、まず達也を呼んだ。
「お爺ちゃん、達也は元気です。これまで、どうもありがとう」
北斗(身体は歌音)と拓郎は、達也を育てるための同志という関係だと確認し合います。
北斗(身体は歌音)が北斗の娘のカオルにもう一度、秘密のジェスチャーをしてお別れを伝えるシーンが感動でした。
↓最後は、北斗(身体は歌音)が「カノン」としての人生を受け入れるシーンでおしまいです。
「わたしーいっ……」
波打つ体は、しばらく言葉が途切れた。そして、もっと大きな声になって叫んだ。
「わたしは、カノン。氷坂カノンよ」
君の名は。 Another Side:Earthbound
| 作品タイトル/著者 | 簡単なあらすじ | 収録書籍/ソフト |
| 『君の名は。 Another Side:Earthbound』 著者:加納 新太 原作:新海 誠 | 高校生男女が入れ替わるようになる。 | 角川スニーカー文庫 『君の名は。 Another Side:Earthbound』 |
※本項目の画像は、全て上記作品からの出典です。
『君の名は。 Another Side: Earthbound』は、『君の名は。』の外伝で、本編では語られなかった三葉と瀧・テッシー・四葉・俊樹と二葉の話が描かれています。
第1話:ブラジャーに関する一考察
第1話「ブラジャーに関する一考察」は、三葉の身体になった瀧の視点の話。
胸揉みやブラジャーについて瀧(身体は三葉)が異常なくらい語ってます(笑)
瀧が三葉の身体を使った感想についても、書き切れないくらい描写がありました。

↓まず、瀧が三葉の身体で目覚めるところからおいしいです。
しばらくのあいだ、眠りでも覚醒でもない境界の状態に、自分をひたひたと浮かべていた。この、オンとオフの中間の状態が、なんとも心地よい。ああ、この時間が永遠にほしい……と思ったそのとき、何か不吉な塊のようなものが、胸の中に、というより胸の上にきざした。
夢うつつの中で、ぎくりとしたものが意識に差し込まれてきたのだが、それをあえて言葉に変換するのなら、
(今日はどっちだ!?)
ぎくりとしたはずみで、反射的に身体を揺すってしまった。その瞬間、全身に猛烈な違和感が襲いかかってきた。
肉付きがうすすぎて、ゾッとする。
つまり、自分の身体を構成している筋肉が、がっちりと身体表面を覆ってくれていない感じがして、ひたすらやわらかくて頼りないのでその不確かな感触にぎょっとしたのだ。
あまりにもやわらかすぎるその腕の肉の感触に、どきりとする。こんなにやわらかいのに、ちゃんと腕としての機能を果たしているのが、もう不思議だ。肌の質感が、筋肉のつきかたが、いや、身体の品質というものが完全に自分の知っているものとは違う。男の身体ではない。
女の身体だ。
今日も、またしても、目が覚めたら女の身体になっていた。
深く息を吸い、ゆっくりと長いため息をついた。
それだけで、《肺の容量が本来の自分と違う》ということに、気づかされてしまう。
↓胸揉みというか、胸で遊ぶシーンがたっぷり2ページ以上あります。狂気的にエッチです。
ひとしきり身体の状態を点検したあと、両手を胸元に移動させた。そして、少し躊躇したのち、パジャマ越しのふくらみをおもむろに手のひらで押した。
手のひらがごくかすかな抵抗を感知し、弱い弾力をもった胸が、へこみ、つぶれる。
すべての指を曲げて、ふくらみを軽く握ってみる。
うむ。
結構、ある。
(中略)
真剣な顔をして、瀧はおっぱいを揉んでしまう。
これをやっていると、なぜだかわからないが妙にリラックスする。
とんでもない今の状況が、ジョークみたいに思えてきて、「気楽にやれよ」と誰かに言われているような気分になる。
胸を揉みながら、頭の中で、「おっぱいおっぱい」とつぶやいてリズムをとっていたら、だんだん面白くなってきた。
おっぱい、おっぱい。
握る、離す、握る、離す。
うわー。
おっ・ぱい。おっ・ぱい。
自分のことながら馬鹿すぎて、おのずと笑みがこぼれてしまう。
時系列としては、二人が入れ替わりを認識して、交替で入れ替わり生活を送っているあたりですね。
二人が喧嘩をしながら情報交換をするシーンや、瀧(身体は三葉)が「三葉」の悪口を言うクラスメイトに仕返しするシーンもありました。

↓着替えイベントもあります。
瀧(身体は三葉)が、会ったことのない三葉の真似をするために、スマホのメモに残っていた三葉の文章を読み上げてみるシーンが好きでした。
布団を上げた。パジャマを脱いで畳に落とした。胸を揉んでいるときよりも服を脱ぐときのほうが、瀧は後ろめたくなる。長押にかかっていた制服を身につける。この恐ろしいスカートというもの、フックとファスナーだけで、ベルトもなしに身体に固定されることにいつも驚く。くびれがあるって、こういうことか。そしてこの細い小さいシャツにするりと身体が通って、きちんとボタンが留まることにも奇妙な感慨を覚えている。
はたから見ているぶんには、女の子のスカートが短いのは単純に嬉しいが、いざ、自分が穿くとなると、こんなに恐ろしいものはない……。
早耶香が首をかしげて言う。「あんた、スカートが長いなんて高校生女子としてのエスプリに関わる、みたいなこと言っとったやろ」
「あいつそんなこと言ってたのか……」瀧は口の中でだけ小さくつぶやく。
↓三葉の身体に対する瀧の感想がとにかく多いです。最高です。
瀧(身体は三葉)は、三葉の身体に慣れようと一人でダンスに挑戦していたら、見られて話題になってしまいました。
三葉の腕は、微妙にリーチが短い。ペンなり何なり、物を手に取ろうとするときに、ちょっとした違和感が襲う。
目指した位置に歩いていこうとするとき、目測した通りの歩数で到着しないことがある。
(中略)
パワーが足りないことも、物足りない。
(けど、燃費はいいな)
瀧は、本来の身体の中にいるときは、ほとんど飢餓感に近い空腹を覚えることがあるのだが、三葉はそうでもないようだ。
それに、筋肉がやわらかいせいか、関節の可動域が広い。
体重が軽いためだろう、機敏に動ける。
動かし慣れたら、この身体は結構楽しいかもしれない。
そういう、《一輪車に載れるようになったら楽しいかも》的なことを瀧は考え始めた。
踊ってみると、重心の高さや、手足の長さが把握できてきた。もう少し慣れれば、むやみに転ぶ心配はなくなりそうだ。三葉の身体に入った日には、体操がわりに毎朝踊ったほうがいいかもしれない。
意識と運動神経がようやく接続された感じがしてきた。
本気で動かしてみると、この身体は楽しい。とにかく柔軟なのがいい。おそらくヨガをやったら、びっくりするような姿勢がとれるはずだ。
↓ノーブラでバスケをして、男子生徒たちの注目を浴びてしまうシーンも詳しく書かれています。
「あんた、何やっとるの」
「え?」
「何しとんの」
「何って?」
「……つけてないの?」
「はい?」
「みんな、凄い見とるって」
事態に気づいて、瀧ははっと息を呑んだ。そして自分でも驚いたのだが、ものすごく漫画のような反応をしてしまった。つまり、胸の位置を両手でかばって、身体をツイストしたのである。
↓三葉本人にブラジャーをつけろと言われた瀧(身体は三葉)は、三葉のブラジャーを眺めながらブラジャーについて4ページ近く真面目に語り尽くします。
他にも、瀧(身体は三葉)が早耶香にブラジャーのねじれを直してもらったり、テッシーのブラジャーのホック外しの話題に食いついたりしますw
というより、つけかたをわかりたくない、という気持ちが根底にある。こういうものを、抵抗なくひょいひょい着用できるようになったら男子としておしまいなのではないのだろうか。何がしか、「自分の性別は男である」という基本的な自己認識が、根底から揺さぶられて、危機に陥りそうな気がするのだ。
どうやら三葉は、はっきりとした色のついたポップな下着を好むようである。そんなことがわかってもしょうがないが、とりあえずそういうことがわかった。色のついた下着は安物というイメージが瀧にはあったが、これは素材は上質そうであり、作りもちゃちではないので、じつは案外高価なものなのかもしれない。
(中略)
ブラ本体の外側に指で触れると、かなりしっかりしていて硬いが、内側はふよふよとやわらかい。押してみるとかなりの厚みがあるのだが、それは胸の大きさのかさ上げを意図しているものではなく、カップの独特の形状を維持するためにこの厚さが必要なのだということがわかる。しばらく、厚みを押したり離したりして感触を確かめる中で、その構造的必然性を理解したのだが、しかしこうやわらかいのでは、少なくとも心臓をナイフで一突きされたときに命を守ってくれそうにはない。
それからがまた大変だった。まったく、世の中の女性という女性は、どうやって毎朝あれを身につけているのだろうか。とにかく、背中でフックが留まらない。そもそも手が届かない。届いても、背中で留め具がどうなっているかわからない。ブラの右端と左端が、背中の中央で、ひたすら宙をむなしくさまよう。
二度ほど背中が攣った。
第2話:スクラップ・アンド・ビルド
第2話「スクラップ・アンド・ビルド」は、テッシー視点の話。
テッシーは、閉鎖的な田舎で一生を送らなければならない自身や三葉の運命について、色々と思うところがあるようです。
↓三葉の入れ替わり現象についてもテッシー視点で触れられていておいしいです。
こうなることが、この一カ月で七、八回くらいあった。
その七、八回の間に、奇怪な言動の事例も増えた。上の下着をつけずにバスケットボールをやり、むやみに高校生男子の目を喜ばせる。ばたばた歩いてクラスの女子たちをひやひやさせる(それとなく女子による人間バリケードができていることがある)。そういう意味では、奇声は発しないものの、奇行には走ったと言えるのかもしれない。
どうして一目で《狐憑き》モードだとわかるかというと、髪型がいつもと違うからだ。

↓自販機カフェのテーブルと椅子を作るシーンもあります。
三葉は丸太にノコギリを当てて、小さく切り込みを入れた。そしておもむろに、片足で丸太の幹をがっと踏み、猛然とノコギリを動かし始めた。
それで慌てたのが早耶香である。後ろから三葉にしがみついた。
「ちょちょちょ、いかんていかんて」
そう言って早耶香は三葉に密着したのだが、どういうわけか三葉も慌てている。
「あああ名取さん早耶香さん駄目駄目触らないで怒られるから。ああでもこっちから触ってるわけじゃないからいいのか。よくないか。いいのか?どうなんだ」
「何言っとるのアンタ」
↓他にも、オカルトマニアのテッシーが入れ替わり現象について色々と考えるところが良かったです。
「あのさ、サヤちん、テッシー」
《狐憑き》のときの三葉が、サヤちん、テッシーという呼び方をするのを聞くのは、ひょっとしたら初めてかもしれなかった。
第3話:アースバウンド
第3話「アースバウンド」は四葉視点の話。
前半は、四葉視点で三葉と瀧の入れ替わりを見るシーン。
↓朝に胸を揉む三葉(中身は瀧)を気持ち悪がったり…
(うわ、またぁ?)
そうっと中の様子が見える程度にふすまを開けてみると、案の定だ。
布団の上に、姉がへたりこんでいる。
濃いピンクのパジャマの上から、自分の胸を、ふみふみ、ふにふに、揉んでいる。
(うへぇ)
思わず四葉は、口もとをへの字に曲げたという次第だ。
最近、こういうことがよくある。朝方、ひたすら、自分のおっぱいを両手で揉みしだいている。
そのときの表情がまた、《おっぱいがあるって、すてき》というようなもので、いよいよ大丈夫かと四葉は思う。もともと持ってるものじゃん。
自分の身体を自分で抱いて、ゴロゴロしているときもある。
《変モード》のときの姉とはどんなものであるか。
髪の毛が雑になる。髪を手入れしなければならないことが心底めんどうくさいという顔をして、投げやりに髪ゴム一本でまとめている。
全体的に身だしなみが適当になった。脚を開いて座っていて、おばあちゃんに怒られる。
なぜかお風呂に入らない日が増えた。
ときどき「俺」とか言っている。
ふと気づくと、自分の身体をあちこちべたべた触りまくっている。
「お姉ちゃんはどうしておっぱいを揉むの?」
姉の動きが一瞬ピタリと止まったかと思うと、次の瞬間、箸を持ったまま、ずいと膝を詰めてきた。
「詳しく聞かせなさい」
(中略)
四葉は聞かれたことを正直に全部話した。三葉は根掘り葉掘り聞き終えると、手早く食事を済ませ、かかとでごすごす音を立てて廊下を歩いてお風呂に行ってしまった。
なぜ怒る。
(自分がしたことやろ)
↓三葉(中身も三葉)と三葉(中身は瀧)の言動に振り回されてかわいそうだったり…
三葉と瀧だと作る料理も違うようです。
「あのな、私がおかしなことやってないか、注意深く監視してて。それであとで報告して」
おかしなこと?
四葉は問いただした。「報告って誰に?」
「私に」
「は?」
「アイス好きなの?こんど買ってきて冷凍庫につっこんでおくよ」
「え?ほんと?おごりなの?いいの?」
「いいよ。あっちも好き勝手に散在してるんだし、おたがいさまだよ」
それを聞いた四葉は、眉を寄せて不審のニュアンスをただよわせ始める。
「おたがいさま?誰と?」
「えっと、誰っていうか……。もう一人の自分、かな?」
「はい?」
「私のアイスぅ!」
「え?」四葉が首だけ振り返る。
「何で食べてるのよぅ」
「え、だって、いいって言ったじゃん」

後半は、好奇心から自分の口噛み酒を飲んだ四葉が、同じようにイタズラで口噛み酒を飲んだ千年前の御先祖様と入れ替わってしまいます。
↓ご先祖様♀の身体に入った四葉のみの登場で、胸を触るシーンがおいしいです(笑)
2ページ近くずっと揉んでましたw
さらに下を向くと、なんと。
胸のふくらみがあった。
あれ。
おっぱいだ。
え?
それほど豊かな胸ではないが、「あれ、こんなところにおっぱいが」と思うくらいには充分にある。
四葉は、身体の前で何かを捧げ持つようにしていた繊細な両手を。
ゆっくり胸に近づけて。
押し当てた。
ああ。
揉んでしまった。
想像していたより、たよりない。ほよとかふよとかそういう感じだ。もっとぱっつんとした、内側から張ったものだと思っていたがそうではなかった。手をぐにぐにと動かしてみると、胸はいいなりになって自由に変形し、手を離すと、自然に元の形に戻る。その戻る瞬間のふるえのような動きが、まことにいとおしい。小袖は透けるほどの薄絹なので、手触りも動きも、服の上からはっきりとわかる。
女の人が、おやという顔をして、扇のふちを自分の唇に当てた。
「そこまで自分の乳房が好きか」
第4話:あなたが結んだもの
第4話「あなたが結んだもの」は、三葉の両親である俊樹と双葉の話(俊樹視点)。
↓本編の終盤で俊樹が瀧(身体は三葉)と対峙して違和感を覚えるシーンから始まります。
「お前は……誰だ?」
自分でも思ってもみない言葉が口から出た。宮水俊樹は今ネクタイをつかまれねじり上げられている。信じられないものを見る目で、そのつかむ手の持ち主を、外見だけは自分の娘でもあるものを俊樹は見た。
これは本当に三葉なのか?という疑問ではない。《これは三葉ではない》という理屈を超えた直感だ。その理屈を超えた直感が、悪寒となって背筋を駆け上がり、俊樹の顔を白くさせていた。
その後、若い頃に研究者をしていた俊樹が、二葉と出会って仲を深めていく回想シーンです。
俊樹が神社の娘である二葉の家へ婿入りし苦労する様子や、三葉と四葉が生まれて二葉が亡くなる場面が書かれています。
最後に、三葉が三葉として俊樹に対峙するシーン。
本編では三葉がどうやって俊樹を説得したのかは語られていませんでしたが、俊樹は以前に二葉と話した内容から、三葉の話を聞き入れて避難指示を出すに至ったようです。
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盗まれた昨日
| 作品タイトル/著者 | 簡単なあらすじ | 収録書籍/ソフト |
| 『盗まれた昨日』 著者:小林泰三 | 女子中学生が犯罪者の男性に記憶メモリを入れ替えられる。 | ● 早川書房 ハヤカワSFシリーズ・Jコレクション 『天体の回転について』 ●早川書房 ハヤカワ文庫 『天体の回転について』 |
※本項目の画像は、全て上記作品からの出典です。
とある国の実験のせいで、世界中の人々は10分しか記憶が保てなくなってしまった。
そこで人々は取り外し可能な「メモリ」を開発し、人工的に長期記憶を保つようになった。
女子中学生の光川夕実は、ある日犯罪者の南出総一郎に連れ去られ、記憶メモリを入れ替えられてしまう。
夕実(身体は南出)は、汚い部屋で目を覚まします。
↓身体は南出のものなので、悪臭はいつも嗅いでいる感じがしたり、口調が勝手に強制されたりします。
目覚めた時に気付いたのは悪臭だった。
こんな臭いは今までかいだことがないはずなのに、妙に慣れた感じのする臭いだった。
(中略)
おっと、うっかり寝ちまったかな?
不思議な違和感を感じた。頭の中に浮かんだ言葉がどうもおかしいのだ。
(中略)
私は立ち上がると、自分の全身を探った。
わたしは素っ裸だった。
いや。それ自体は驚くべきことではない。驚くべきなのは、自分の体が男性のそれだったことだ。
わたしは悲鳴を上げた。
男の野太い声が響いた。
(中略)
そう。今はわたしの声だ。
わたしは深呼吸をした。
口臭がした。さっきの悪臭はこれだ。
一刻も早く口を漱ぎたかったが、その前にできるだけ現状を把握しておく必要がある。
↓夕実(身体は南出)はかなり落ち着いていて、南出の記憶を読みながら「元の夕実の身体」のところへ行こうとします。
防犯カメラに映っていた「夕実」は、走って逃げたようです。
南出はかなりまともではない人種のようで、夕実(身体は南出)は非常にかわいそうです。
わたしの名前は?
南出総一郎。
そういう名前が浮かんだ。それが本当にこの男の名前なのか、単にそんな気がしているだけなのかはわからないが、大事な情報であることは間違いない。
(中略)
「随分と他人行儀じゃないか、南出さん。とりあえず、今週分の家賃だけでも払ってくれないか?もう五週間も溜まっているんだがね」
「ところが、困ったことになってね」わたしのメモリにとっては初めての声だったが、当然ながら馴染み深く感じた。「昨日、その……」わたしは一人称を一瞬迷った。「俺が女を部屋に入れたのを知ってるか?若い女だ」
↓何とか「夕実の家」に辿りついた夕実(身体は南出)ですが、南出の脳のせいで他人の家のような感覚を覚えます。
家は記憶の中のそれとぴったり一緒だったが、激しい違和感も感じた。おそらくこの中年男――南出――の目を通してみるのは初めてだからだろう。
↓夕実(身体は南出)が南出の身体を嫌がる描写が最高ですね。
夕実(身体は南出)は悲鳴を聞きつけて「夕実の部屋」に行くと、そこには夕実の友達の「荒山美智子」の死体が…
夕実の心と南出の身体の感情が違って、夕実(身体は南出)が戸惑うのがおいしいです。
その時、家の中から悲鳴が聞こえた。
わたしは強い恐怖を感じた。
わたしの体は無意識のうちに動き、家の外壁をよじ登り、二階の窓を割って侵入した。その間、わずかに数十秒。おそらく昨日もこうやって侵入したのだろう。手続き記憶になっているところを見ると、南出はこんなことをずっと繰り返してきたのかもしれない。
わたしは震える南出の手を見つめた。
この男はやはり犯罪常習者なのだ。一刻も早く、この男の体から出て行きたい。
わたしは音もなく、階下へ降り、昨日までわたしだった光川夕実の勉強部屋へ向かった。
もう悲鳴は聞こえない。その代わり何か嫌なにおいを感じた。
南出の体はそのにおいに反応し、興奮している。
だが、わたしの心は不快感を覚え、心と体の食い違いから強い吐き気を催した。
わたしは絶叫しながら、ドアを蹴破るように開放した。
そこには、全裸の荒山美智子が横たわっていた。
部屋一杯に広がる血溜まり。
異様に興奮する南出の肉体。
↓夕実(身体は南出)と南出(身体は夕実)の心理戦が熱いです。
南出(身体は夕実)は、「南出(身体は夕実)=南出の記憶を植え付けられた被害者の夕実」、「夕実(身体は南出)=夕実の記憶を自らに植え付けた加害者の南出」という理論を展開します。
そこには全裸で血塗れの光川夕実が立っていた。
目には狂気を湛え、口を半開きにし、涎を垂れ流し、へらへらと力なく笑っている。
「南出総一郎!!」私は憎しみの命ずるまま叫んだ。
「おいおい。それはあんたの名前だよ、おじさん」南出の記憶を持つ光川夕実が言った。
「その体を返せ!」
「あんた、何か勘違いしてるようだね」全裸の夕実は舌を出した。口の中も血で真っ赤だ。「南出総一郎はこの女の子の体を盗んだんじゃない。記憶を盗んだんだ。そして、光川夕実に自分の記憶を植え付けた」
「どっちでも同じことだ」
「いいや。違う。天と地ほど違うさ」夕実は勝ち誇ったように言った。「つまり、加害者はあんたで被害者は俺だってことだよ」
(中略)
「誤解しているようだが、ここには南出総一郎はいないぜ」少女はこつこつと自らの頭を叩いた。
「いるのは、光川夕実だ。ただし、南出総一郎の記憶を持っているがな」
↓南出(身体は夕実)が完全に優位な展開です。
南出(身体は夕実)は、「荒山美智子」の死体から奪った「荒山美智子の記憶メモリ」を人質にして夕実(身体は南出)を脅します。
「じゃあ、それでもいい。わたしは南出総一郎で、今まで散々酷い殺人を行ってきた。そうだな」
「ああ。あんた自身はもう忘れているが、あんたほど下種な野郎はいないよ。俺はよーく覚えている」
「何が望みだ?」
「たいしたことじゃない。ただ、いますぐこの家を出て行ってくれるだけでいい」
「どうするつもりだ?」
「警察を呼ぶ。あんたはこの家の中の様々なものに触れた。荒山美智子の死体を含めてな。俺が変な男が入ってきて、荒山美智子を殺したと言えば、疑う理由はない。それで、俺は安泰。この家の娘として暮らす。そして、あんたは殺人犯として、逃亡を続けるという訳だ。逃亡に必要なノウハウはその体が覚えているだろう」
(中略)
「もし、壊したら、わたしを止めるものは何もなくなる。今のわたしなら、おまえの首をへし折ることなど朝飯前だ」
「さあ。どうなるか、本当にやってみるまではわからないな。それに、この体を壊したら、あんたは二度と光川夕実に戻れなくなる」
↓「夕実の身体に刺さっていた南出の記憶メモリ」は殺害直前に抜き取られていたため、南出(身体は夕実)はどんどん殺害前後の記憶を失っていき、形勢逆転…
少女は荒山美智子の死体を見つめた。「その女は、俺が殺した?そうなのか?」
「どうした?自分のやったこともわからないのか?」
「俺は……そう。俺は南出総一郎だ」少女は呆然と言った。
↓形勢逆転…したかのように思えましたが、「南出の身体に刺さってしまった夕実の記憶メモリ」は南出の精神に汚染されてしまっていました。
夕実(身体は南出)が南出の記憶を読んで苦しむシーンが最高です。
「でたらめを言うな。もうすぐ光川夕実の中野おまえは消える。おまえの負けだ」
「いいや。俺は消えない。あんたの中に生き続ける」
(中略)
「あんただって、もう気が付いているはずだ。気付かない振りをしても仕方がない。もう光川夕実のメモリは汚染されているんだよ」
「何を言ってるのか、さっぱり……」
「俺は大忘却の時を覚えている。俺はあの時、すでに大人だったんだよ。成人に至るまでの南出総一郎の記憶は、その脳の中に長期記憶として残っている。そして、その気になればいつでも思い出せる」
「やめろ!喋るんじゃない!!」
わたしは決して思い出してはならないことを意識に上らせまいとした。しかし、そう思えば思うほど意識がそちらに向いてしまう。
「うわあ!!」わたしは頭を押さえ絶叫した。
わたしは思い出してしまった。南出総一郎としての記憶を。さびしい幼少時代を。そして、歪んだ性格を形成した青春時代を。犯した女たちのことを。殺した子供たちのことを。それらの思い出は強く甘い快感とともにわたしを覆い隠した。
「思い出したか?あんたは人でなしだ」
一度意識に上った記憶は瞬時にメモリへと書き込まれていく。南出総一郎の穢れた記憶はわたしの記憶として永久に残り続ける。
記憶メモリを抜き取られた南出(身体は夕実)は、完全にか弱い少女の人格に呑まれてしまいました。
夕実(身体は南出)も、凶悪な犯罪者の人格に呑まれてしまった…と思いきや…
光川夕実は全裸のまま、荒山美智子の遺体を見て、ぶるぶると震えていた。「これは誰?死んでいるの?」
「怖がらなくていいよ、お嬢ちゃん。これはただの悪い夢だ」わたしは光川夕実にやさしく声を掛け、ベッドから毛布を取り上げ、彼女に被せた。「怪物はもう行ってしまった。さあ、この部屋から出よう。居間で少し休めばいい」
「わたしは……わたしは誰?何も思い出せない」
「怖がることはない。一時的なものだよ」わたしは光川夕実の手を引き、居間のソファに座らせた。「今、温かいココアを持ってくる」
台所でココアを淹れている間も、怪物はわたしの頭の中で暴れ続けていた。焼け付くような快感への欲求を突きつけ、わたしを支配しようとしていた。
光川夕実と荒山美智子は以前から記憶メモリを交換して遊んでおり、南出総一郎に入れ替えられた際も入れ替わっていたと判明。
つまり、本当は南出総一郎→光川夕実→荒山美智子で入れ替わっていて、殺されたのは夕実(身体は美智子)でした。
ということで、本作の語り手は「光川夕実の精神」ではなく、「荒山美智子の精神」ということに…
↓冒頭のセリフは荒山美智子(身体は光川夕実)のものだと思われます。
みっちゃんはとても綺麗な子だ。みっちゃんはわたしの方が可愛いと言ってくれるけど。きっと彼女は本気で言っているのだと思う。でも、客観的に見て、わたしより彼女の方がずっと魅力的なのは間違いない。
わたしはキーボードを打つ手を休め、手鏡を覗き込んで溜息をついた。
ああ。みっちゃんはなんて美人なんだろう。
わたしは手鏡を置くと、作業を続けようとした。
↓女子中学生二人が以前から入れ替わっていたであろう伏線もいくつかありました。
わたしは喉のメモリを撫で、みっちゃんと二人だけの秘密のことをうっとりと思った。
二人だけの甘い秘密。
↓「昨日までのわたし」は「荒山美智子(身体は光川夕実)」を指すのでしょう。
両親が出張から帰るのは明後日だが、昨日までのわたし――光川夕実――は普段ならもう家に戻っていてもおかしくない時間だ。
わたしは音もなく、階下へ降り、昨日までわたしだった光川夕実の勉強部屋へ向かった。
夕実(身体は南出)改め美智子(身体は南出)は、汚染されていない「光川夕実の記憶メモリ」を「光川夕実の身体」に戻してあげます。
しかし、「荒山美智子の身体」は殺害され、「荒山美智子の記憶メモリ」は南出に汚染されてしまいました。
↓美智子(身体は南出)は南出の記憶メモリを持ったまま、元に戻らない選択をしてその場を立ち去るのでした。
元の自分の死体とのお別れシーンが胸に突き刺さります。
「みっちゃん」のあだ名は荒山美智子のものではなく、光川夕実を指していたとどんでん返しが起こるところがかなり良かったです。
はたして、わたしは荒山美智子なのか、それとも南出総一郎なのか。簡単に結論が出る問題ではない。
南出として生きたくはない。だが、世間はわたしを荒山美智子として、認めてくれるだろうか?
(中略)
しかし、荒山美智子の記憶の優位はいつまで続くのだろう?美智子の記憶はいわば付け焼刃のようなものだ。この肉体の人格は一時的に影響を受けているだけかもしれない。殺人鬼の脳はどんな記憶を持っていてもやがては殺人鬼の人格を作り上げてしまうものだとしたら?さらに、わたし自身の中には数十年の南出の記憶が蘇ってしまっている。これもまた、私の人格に強い影響をもたらすことだろう。
(中略)
もう一度、夕実の部屋に戻り、荒山美智子の遺体に対面した。
さよなら。わたしの体。十四年間ありがとう。
そして、居間に戻ると、みっちゃんの寝顔に接吻し、夜の闇の中に消えていく。
リプレイス!病院秘書の私が、ある日突然警視庁SPになった理由
| 作品タイトル/著者 | 簡単なあらすじ | 収録書籍/ソフト |
| 『リプレイス!病院秘書の私が、ある日突然警視庁SPになった理由』 著者:愁堂れな 絵:くにみつ | 秘書とSPがぶつかって入れ替わる。 | 集英社 集英社オレンジ文庫 『リプレイス!病院秘書の私が、ある日突然警視庁SPになった理由』 |
※本項目の画像は、全て上記作品からの出典です。
式典で花束贈呈役を頼まれた秘書の青井朋子だが、式典中に暗殺騒動に巻き込まれ、警視庁のSP・田中葵とぶつかった拍子に入れ替わってしまう。
二人はお互いの生活を交換しながら、犯人を探ることになった。
↓目が覚めた直後の朋子(身体は田中)の反応が最高です。
田中ボディはSPらしいムキムキボディで、朋子(身体は田中)はイケメンと入れ替わりたかったと嘆きますw
「す、すみません!大丈夫ですっ」
慌てて飛び起き、そう告げた途端、朋子は己の声の野太さに驚いたせいで、思わず高い声を上げてしまった。
「な、なに?」
だがその声もやはり野太い。まるで男の声じゃないか、と朋子は己の喉に手をやろうとし、その手のごつさにまた驚いて悲鳴を上げた。
「なにこれっ」
「き、君?」
広げた両手はどう見ても男の手だった。どうしたことか、と己の身体を見下ろし、病院着を身に纏った分厚い胸板に驚いてまたまた悲鳴を上げる。
朋子(身体は田中)と田中(身体は朋子)の視点で交互に話が進むので、どちらの心情描写もしっかりしていておいしいです。
↓戸惑う田中(身体は朋子)の描写も最高ですね。
「落ち着けと言っているんだ。泣いたところで事態は好転しない」
発した声が女のものであるのにはまだ慣れない。しかし自分はしっかり現実を受け止めている。
(中略)
「わ……わたし……?」
自分を見つめるその目からは涙が溢れ、唇はわなわなと震えている。情けなさすぎる、と葵は思わず語気荒く言い捨ててしまった。
「泣くな!俺の顔で!」
暗殺の対象となったイケメン代議士の山之内一友は、すぐに入れ替わりを信じてくれます。
山之内のおかげで二人は一緒に過ごせることとなり、また暗殺犯を探す手伝いをすることに。
↓朋子(身体は田中)のトイレネタ、田中(身体は朋子)の化粧ネタもあります。
田中(身体は朋子)はすっぴんにジャージで通勤し、朋子(身体は田中)を激怒させます。
さらに、朋子(身体は田中)のオネエ口調にダメ出しw
「あの……お手洗いにいきたいんですけど、その……男の人ってどうやって、用を足すんですか?」
「…………」
そんなこと、と言いかけ、自分が尿意を覚えたときにはどうすればいいのだと思い当たる。
「なんですっぴんなのよー!!」
そう。今、目の前にいる『朋子』には化粧の痕跡がなかった。
(中略)
「どうして化粧市内の!まさかと思うけど顔洗ったきりで来たわけじゃないわよね?紫外線避けに何か塗っては来てるわよね?」
「いや?顔を洗ってそのまま来たが?」
↓二人の下着ネタも気まずい雰囲気が良かったです。
特に、田中(身体は朋子)が真面目系天然で不器用なところがかわいいです。
「下着、うまくつけられました?」
ボクサーパンツを穿くのは簡単だ。が、収まりが悪い気がしてならない。葵は見たところ、上手くブラジャーをつけているようである。抵抗はなかったんだろうか、と問いかけた朋子の前で葵の顔がみるみるうちに紅く染まっていった。
「……すまん」
「…………」
なんだその謝罪は。眉を顰めた朋子の視線を避けるように俯き、葵が、ぼそ、と告げる。
「……触ってしまった……」
「…………」
それ、言われるほうがよっぽどいやなんだけど。ブラをつけるときに胸を触るのは不可抗力だ。それをいったら朋子も、ボクサーパンツを穿くときには見たくもないが葵のイチモツが目に入る。しかしそれを本人に伝えようとも思わないし、謝罪しようとも思わない。
↓女性として扱われ、女性らしさを押し付けられる田中(身体は朋子)のシーンがおいしいです。
OLとしてお茶くみをさせられるところが好きですね。
「こちらとしては大変ありがたいが、今、君はか弱い女性の姿をしているんだ。危険な目に遭わせるわけにはいかない」
「…………」
「ちょっと待って!外股!外股になってるから!!」
「……え?」
暫く歩いてから葵が立ち止まり、訝しそうな顔で振り返る。
「足よ、足!つま先は外向きにしないで真っ直ぐ!一本線の上を歩く感じで!今だと完全に右左、それぞれ二本線の上を歩いてるから!」
(中略)
「ハイヒールは歩きにくいな。健康サンダルに履き替えたら駄目か?」
「……却下」
朋子本人は後輩たちとあまり仲良くはありませんでしたが、田中(身体は朋子)が素直に助けを求めたり、お礼を言ったりするので、見直されてしまいました。
朋子(身体は田中)がそんな元の自分の姿を見て、複雑な気持ちになるところが良いです。
↓田中(身体は朋子)がチンピラにナンパされるところも好きです。
田中はか弱い朋子ボディでも戦略的にチンピラを撃退します。
朋子の後輩たちにイケメンと言われるのが最高です。
「なんだ、また綺麗なねえちゃんが来たな」
「2×2でちょうどいい。ねえちゃん、これから飲みに行こうぜ。どうせあんたなら、暇なんだろ?」
チンピラたちがやにさがり、葵に下卑た笑いを向けてくる。
「…………」
意外な相手の反応に、葵は一瞬違和感を覚えた。が、すぐに、自分が今、『朋子』の外見をしていることを思い出した。
もともとの身体であれば、こんなチンピラ、難なく床に沈めることができるが、今の身体は腕力も脚力もまるでない。それは昨夜寝る前にルーティーンにしている筋トレを行おうとしたところ、筋肉がまるでないため普段の十分の一もこなすことができなかったことからわかっていたが、とはいえ、今更逃げるわけにはいかない。
↓田中(身体は朋子)の萌えるシーンが多くて書き切れませんw
スカートを再び穿いたあと、外見をチェックするためにバスルームへと向かう。
「…………」
洗面台の鏡に映る『自分』の姿を見た葵は、頭では今の外見がどうなっているか、わかっているはずなのに、映っていたのが女性であることには、どうしてもぎょっとせずにはいられなかった。
(中略)
そのまま鏡に映る顔を見ながら葵は、昨夜見た彼女の笑顔を思い出しつつ、にっこり、と笑ってみせた。が、どうしても笑顔が引き攣るので、何度も何度も笑い直し、ようやくこれ、という顔に到達する。
「うん、美人だ」
シャワーを浴びるのも後ろめたい気がし、下着を身につけるのも誰もいないのに『すまん』と謝りながらこなした。葵も学生時代に一度ではあるが、女性と付き合った経験はあるので、異性の裸体に戸惑っているというわけでもない。付き合ってもいない女性の裸をみることに、罪悪感を覚えてしまうのだ。
(中略)
葵は今の身体になってから、少しも速く歩けないことや、すぐ息が切れること、加えてまったく腕力がなくなっていることにストレスを覚える。朋子はその逆のはずであろうが、今朝の様子からすると、活用はできなさそうだった。
朋子(身体は田中)の方も、「朋子」の悪口を言われて怒ったり、田中の普段のキャラがわからず困惑したり…
↓描写の仕方も入れ替わり的においしくて良いです。
どんな筋トレをすればこの身体が手に入るのかも気になる。スクワットなんて百回くらいやってたりして。
息一つ乱すことなく、物凄いスピードで進んでいく己の身体を朋子は頼もしい思いを胸に見下ろす。
顔は老けてるけど、実年齢はギリ二十代だしね、と、心の中で呟いていた朋子の脳裏には今は『自分の顔』となっている、葵の熊のような容貌が浮かんでいた。
↓田中(身体は朋子)は、元の自分になっている朋子(身体は田中)を見てドキッとしてしまいます。
お互いに筋トレと化粧を教え合おうとするところが良いですね。
二人とも仲良くなって、照れながら名前呼びをしていて最高です。
最後は少し照れた様子で言葉を足した朋子を前にする葵の胸がまた、どき、と高鳴る。
外見は自分であるのに、実に可愛い。
(中略)
見た目が自分であるだけに違和感は募るのだが、表情や仕草がなんとも可愛らしい。
「……っ」
可愛らしい――いや、待て。落ち着け。顔は自分だ。
↓犯人との対峙中の田中(身体は朋子)がカッコよかったです。
「この女に撃てるわけがねえ!とっとと山之内議員を仕留めるんだ」
どうやら兄貴分らしい男が愚鈍そうなもう一人に向かって喚く。と、葵はカチャ、と安全装置を外し、男を睨み付けた。
「生憎銃の撃ち方走っている。試すか?」
「…………っ」
↓色々あって、元に戻ります。元に戻った直後も尊いです。
朋子と田中は両想いになり、ハッピーエンドでした。
「膝蹴り、されたじゃないですか。私のせいで……」
ごめんなさい、と頭を下げる朋子に、葵が「大丈夫だ」と頷いたあとに、不意に心配そうな表情となる。
「あれしきのこと。それより君の身体で無茶をしてしまった。決して傷つけぬよう配慮はしていたが、痛みなど、覚える箇所はないか?」
パパとムスメの7日間
| 作品タイトル/著者 | 簡単なあらすじ | 収録書籍/ソフト |
| 『パパとムスメの7日間』 著者:五十嵐貴久 | 女子高生の娘と、その父親が電車事故で入れ替わる。 | 朝日新聞社 『パパとムスメの7日間』 |
※本項目の画像は、全て上記作品からの出典です。
化粧品会社に勤めるしがないサラリーマンの川原恭一郎と、サッカー部の健太先輩に片思い中の女子高生の娘・小梅。
二人ともちょっとしたきっかけで、しばらく口をきいていなかった。
ある日、祖母のお見舞いへ行った帰りの電車で二人きりになった際、地震による事故に巻き込まれ、病院で目覚めたときには入れ替わっていた。
父親視点と娘視点を交互に繰り返しつつ、ストーリーが展開する構成になっています。
↓病院で目覚めた恭一郎(身体は小梅)が「娘」扱い、小梅(身体は恭一郎)が「父親」扱いされるシーンが最高でした。
「お嬢さんが」
声がした。男の声。誰かの動く気配。小梅、と叫ぶ声。理恵子だ。
「意識を取り戻したようです」
(中略)
「あれだけの事故で、顔に傷ひとつついていないというのは。奥さん、いいご主人ですね。娘さんをかばったのでしょう」
はい、と私を胸に抱いたまま理恵子が泣きじゃくり始めた。そんなのは当たり前のことだ。そう言いたかったが、理恵子の体が邪魔で口を動かすことができなかった。
「なかなかできることではありませんよ。ご主人の方も検査の結果、数値は正常です。まもなく意識を取り戻されるでしょう。目が覚めたら、誉めてあげてもいいんじゃないですか?」
男が小さく笑った。病室に和やかな空気が漂う。ええ、ええ、と理恵子が何度も繰り返した。そうか、無事なのか。全身の力が抜けた。
ちょっと待て。
何かがおかしい。医者や、看護師、そして理恵子は何を言っているのか。今まで私に向かって話しかけていた言葉は、いったいどういう意味だったのか。
↓小梅(身体は恭一郎)の目覚めシーンも腕や爪に言及がしてあり最高です。
あたしったら、いつからこんなに腕が太くなったの?おかしいなあ。何か筋肉とかけっこうついてない?
左腕を裏返してみた。色が黒い。何があったのだろう。汚れてるの?
指先を見つめた。爪。何、これ。マニキュア、全部剥げてる。
(中略)
あたしは右手で髪の毛に触った。変な手触り。そして、鏡の中でパパも同じように髪の毛をいじっていた。
止めてよ、真似なんかしないで。まばたきした。鏡のパパもやっぱりまばたきする。待って、どういうこと?
手を見た。関節に毛が生えている。何よ、これ。どうなってんの?気持ち悪い。顔を触った。
鏡の中でパパの手は鼻から下を覆う。何、このちくちくした感触。これって、ヒゲ?
あたしはもう一度腕を見て、それから着ていた白いシャツの上から胸に手を当てた。
↓恭一郎(身体は小梅)の女子トイレイベント。短いですが、おいしいです。
娘が父親嫌いなので、色々と萌えますねw
その中でも一番大きかったのは、やはりトイレだった。便意はともかくとして、尿意はやはりある。最初のうちは小梅に泣かれて参った。要するに、あたしがオシッコしてるところを見るな、というのだ。
気持ちはわかる。しかし、私の立場もわかってほしい。排泄行為は人間として自然なものだ。
どうにか説き伏せて、絶対に見ないと約束を交わし、ようやく許可を取った。その割に小梅は自分が小用に立つのは平気だった。男女差別のような気がするが、どうなのか。
(中略)
詳しく述べるつもりはないが、男の小便と女の小便はやはり違う。これは主に方向性の問題だ。手で支えるわけでもなく、いったいどうなることかと思っていたが、便器に座ったらなるようになったので安心した。人体には神秘がまだまだたくさんある。
↓小梅(身体は恭一郎)の方も、トイレイベントがあります。
意外と男体放尿を楽しんでいる気がします(笑)
それがいきなり男の、それもオヤジの体になっちゃって、マジでシャレになんないって。しかもやっぱりオシッコ行きたくなっちゃうし。ホント、吐くよ、あたし。
(中略)
オシッコしたくなってトイレに行ったら、あたしのあそこはやたらと立体的で、目のやり場に困った。
……ゴメン、ちょっとウソついた。ホントは最初、じっくり眺めちゃった。
気持ち悪いんだけど、怖いもの見たさっていうか、どうしたって目に入ってきちゃうし、狙いを定めないと、オシッコはちゃんと思った方向に行かないし。男と女って、えらい違いだ。
それでも慣れってオソロシイもので、今朝なんかあたしは生まれて初めて立ちションにトライしていた。ぶっちゃけ、一度やってみたかったんだよね。やってみたら、別に何てことはなかったんだけど。
戻る方法がわからないため、二人はお互いの演技をして生活することに。
運悪く、「父親」には大事な会議、「娘」には大事なデートの約束が…
↓小梅(身体は恭一郎)が母親に「夫」として扱われるのが良いです。
「とにかく、無事でよかったわ」
ママがあたしの右手に触れてきた。思わず手を引っ込めてしまった。え?というように見つめられて、マジで焦った。
「青になったよ」
さりげなくそう言うのがやっとだった。そうだ、あたしはパパなのだから、やっぱりママの手を握ってあげるのがフツーなのだろう。マジで?うわ、どうしよう。キモい。キモすぎる。
↓退院して帰宅後、すぐにお風呂イベントに(笑)
思春期の娘が父親に身体を見られたいはずはないので、母親が買い物で出かけている隙に目隠し介助で済ませます。
恭一郎(身体は小梅)の父親としての威厳は皆無ですw
後にもう一度、目隠しお風呂イベントと着替えイベントがありました。
「……じゃあ、ゼッタイ見ないで。目をつぶってお風呂入って。体洗う時もよ。ねえ、聞いてる?」
パパのブラウスの襟元をねじるように摑んだ。やっぱり男の人は力が強い。パパの、つまりあたしの体が一瞬浮いた。聞いてる聞いてる、とパパが目を白黒させながらうなずいた。
「目をつぶったまま、どうやって体を洗えばいいのかな」
(中略)
「お前も見るなよ」
バカじゃないの?見たくもない、パパの体なんて。
(中略)
「下着も見ないで!」
「娘のパンツに興味なんてない」
「パンツじゃない、ショーツよ!」
気が狂いそうだ。でも、確かに目をつぶったまま着替えるのは難しいこともわかってた。後ろ前だってあるし、だいたいブラのはずし方だってわからないだろうし。
ちょっと待って、とあたしは二階の自分の部屋に飛び込み、バンダナを取って戻った。細く巻いて、それでパパに目隠しをした。
思いきり強く締め上げたら、痛い痛いと女の子みたいな声で言った。てゆうか、女の子なんだけど。
(中略)
何だかものすごく変な感じだった。ブラとショーツだけのあたしが目の前にいる。鏡で見るのとは違って、立体的。
そうか、あたしってこんな体してるんだ。やっぱり脇のお肉がちょっと気になる。思わず指でつまんでみた。
「痛い、バカ」
パパが体をひねる。やっぱりダイエットしなきゃって真剣に思った。
「早くしてくれ」目隠しをしたままのパパが体の前で手をクロスさせた。「恥ずかしいぞ、これは」
バカなこと言わないで。こっちだって恥ずかしいんだから。
(中略)
「どうしたらいいんだ」おろおろしながらパパが手を動かした。「どこにそのコンディショナーがあるのかわからんぞ」
そうだった。パパは今何も見えないのだ。ああ、もう面倒。あたしはスーツのボタンに指をかけた。何だかうまく脱げない。理由は簡単だった。
男物の背広ってボタンが左前になってる。いつもと逆だから、どうしてもぎこちなくなっちゃうんだ。
↓恭一郎(身体は小梅)が小梅のセーラー服を観察するシーンが好き。
一番右側に、ハンガーに吊るされたセーラー服があった。明日、私はこれを着ることになるのかもしれない。何か月か前に中嶋たちと連れ立って行ったコスプレパブのことを思い出した。
私がそのセーラー服に手を伸ばしたのは、あくまでも偶然だった。当たり前だが、一度も着たことはない。どんなものなのか、確かめてみようと思っただけだ。
クローゼットの扉のところに鏡があったので、自分の体にセーラー服を当ててみた。なるほど、こんな感じか。スカーフみたいなこれは、いったいどうするのだろうか。
この後は、家族三人で退院祝い。
小梅(身体は恭一郎)が母親にビールを飲まされそうになったり、入れ替わった父娘が好物をこっそり交換したり、最高です。
お互いの好物がお互いの嫌いな食べ物というのが良いですね。
どちらかというと、小梅(身体は恭一郎)の方が機転が利く感じです。
小梅(身体は恭一郎)はダイエットをしなくても良いとモリモリ食べ、恭一郎(身体は小梅)はダイエット中だからと食べさせてもらえませんw
↓ちなみに、意識していれば身体の方の口調で喋ることができるようです。
不思議なもので、私と小梅は心と体が入れ替わっているが、意識していれば互いの口調で話すことが出来た。”体が覚えている”ということなのだろう。
ただ、何も考えていない時、不意に呼びかけられたりすると、反射的に心の自分が答えてしまう。気をつけなければ、面倒なことになるだろう。
「なに?ママ」
精一杯かわいらしく返事をした。
二人は身体の方の携帯を持ち、小梅(身体は恭一郎)は会社へ、恭一郎(身体は小梅)は高校へ…
↓着替えイベントもしっかりあります。気弱な恭一郎(身体は小梅)に萌えます。
その間、私たちはお互いの服を着付けることにした。目の前で中年男がスーツに着替えるところに立ち会うのは初めての経験だったが、小梅の側にそれほど問題はなかった。ワイシャツ、ズボン、ジャケットという三点セットは、それほど考えて身につけるものでもないのだろう。
ネクタイだけは不慣れなようで、ちょっと処理に戸惑っていたが、教えてやるとすぐにコツをつかんだようだ。どっちにしても、一度締めてしまえば外すことはめったにない。
問題なのは、私のセーラー服だった。着替え自体は、例によって厳重な目隠しをされた上で小梅がしてくれたからそれでよかったが、何しろスカートを穿くのが人生初の出来事だったのだ。
とにかく股間が頼りない。おまけにスカートはどういう意図があってのことか、凄まじく短く、恥ずかしさで死にたくなった。
「階段とか、気をつけて」小梅が鋭い声で命じた。「男がみんな見てるから。エスカレーターとかも油断しちゃダメ。バッグ、お尻の方に当てるの忘れないで」
こうか、と私は通学用のバッグを尻の側に回した。それなら、こんなに短いスカートを穿かなければいいと思う。いやもう、何でこんな目にあわなければならないのか。
家に帰って、小梅が用意してくれていたジーンズとTシャツに着替えた。着替えの時に目をつぶっていたのは言うまでもない。ブラジャーがうっとおしかったが、外すことは厳重に禁じられていた。
ちなみに、夜寝る時も同じで、慣れの問題なのかもしれないが、何しろ私は四十七歳にして初ブラジャーなのだ。邪魔でしょうがなかったが、少しでも触ったらぶっ殺すと脅されていたので、従うしかなかった。
しばらく探したが、どうしても見つからない。とりあえず、ちょっとだけ、ちょっとだけ目を開かざるを得ない。見るわけではないのだから、構わないだろう。
薄く目を開くと、正面に姿見があった。いやもう、私はちょっと立ち尽くしてしまった。女子高生のブラジャー姿。いやいや小梅ったら、いつの間にそんな大人になられて。
↓学校へ行った恭一郎(身体は小梅)は、女友達に胸を当てられるイベント。
さりげなく娘の発育について言及したり、オヤジ臭い口調で怪しまれたりするのが好きw
ありがたいことだが、問題がないわけではない。小梅は、その、平均的女子高生というか、もしかしたらおそらくは少し発育に難があるのかもしれないが、つまり子供っぽい体型という意味なのだが、律ちゃんは昔からかなり胸が大きく、早い話が、今、私の腕に女子高生の胸が当たっており、それは大変困った事態で、いったいどうすればいいのか。
会社へ行った小梅(身体は恭一郎)の方も、男性社員と男性同士の会話をしたら女性社員にセクハラだと思われたり、女子高生的な視点で意外と周囲と会話が盛り上がったり…
「恭一郎」は窓際社員で、成りすますのに大きい問題はないようです。
↓細かい描写も入れ替わり的においしくて、書き切れませんw
改札でしばらく待っていると、不機嫌な顔をした背広姿の小梅が出てきた。おかえりなさいと声をかけると、ただいま、と低い声で答えが返ってきた。
知らない人が見たら、うるわしい親子愛ということになるのだろう。だが、実際にはまったく逆だった。
ママに起こされたのは八時前で、あたしは真っ先に自分の胸を触って、元に戻っていないかどうか確かめたけど、悲しいぐらい平坦な感触があるだけだった。
↓恭一郎(身体は小梅)は、小梅(身体は恭一郎)に元の自分の身体を人質に取られて、渋々小梅の彼氏とのデートへ。
恭一郎(身体は小梅)のリアクションがかわいくて尊いです。
「そんな、お前、パパが男の子と会って何を話せばいいんだ?だいたい、なぜお前たちは会うんだ?やっぱりデートってことなのか?」
「違うってば!そーゆーことあるでしょ、話の流れで映画見る約束しちゃっただけだって。それだけなんだから。パパが思ってるようなことなんてないんだから」
ムリムリムリ、とパパが女子高生っぽく首を振った。何でそこだけ女子高生になんのよ。
(中略)
「もういいよ!明日、パパが先輩と会ってくれないんなら、あたし火曜日のナントカ会議で素っ裸になってやる!」
急にパパが黙りこんだ。
娘がケンタ先輩に取られるのが許せない恭一郎(身体は小梅)は、「小梅」が嫌われるための作戦に出ます。
優しいケンタ先輩に対して無愛想に振る舞ったり、大食いしたり、古い映画で盛り上がったり…
しかし、全て裏目に出て逆に好感度を上げてしまいました(笑)
↓身長ネタが一番好きですね。年齢差ネタや体力差ネタもあります。
電話をするフリをして指示を出す小梅(身体は恭一郎)の頭の回転に感心しました。
今、私は小梅なので、身長は百五十五センチしかない。おそらく彼は百八十ほどあるのではないか。昔から背の高い男は気に入らない。ますます彼が嫌いになった。
ケンタ先輩が「小梅」に告白しようとしたのを見て、小梅(身体は恭一郎)は父親面して止めに入ります。
さりげなく、「ケンタ先輩と小梅の仲」を「父親公認」にしてしまう機転が最高ですねw
この後は、小梅(身体は恭一郎)が恭一郎の後輩の西野さんに相談を受けたり、恭一郎(身体は小梅)がテストに苦戦したり…
小梅(身体は恭一郎)が「小梅」としてケンタ先輩とメールのやりとりをするところが好きです。
そして小梅(身体は恭一郎)は、新商品のターゲットである女子高生のことを全く考えていない恭一郎の会社の重役たちに、つい口を出してしまい…
父親の首を勝手に賭けてしまう小梅(身体は恭一郎)が最高でした。
↓実は西野さんは年上の男性が好きで、「恭一郎」を狙っていました。
小梅(身体は恭一郎)が断りを入れると、西野さんは「小梅(中身は恭一郎)」を殺そうとしてきて…
男だったら、すぐデレデレしちゃうだろうけど、あたしには通じませんって。それに、こんな目をする人って、女同士だと、いきなり態度変わったりしちゃうんだよね。
↓西野さんが入れ替わりに気がつかず、恭一郎(身体は小梅)に接触するシーンがカオスの極みでとても良いです。
「あのね、わたしとあなたのお父さん、恭一郎さんは、おつきあいしてるの」
なるほど、驚いた。外見は小梅だが、中身は川原恭一郎なので、なおさらだ。
いったい、いつ私が西野とつきあったというのか。しかも恭一郎さんとは。理恵子にだって、もう十年以上名前で呼ばれたことはない。
「待ちなさい。西野、西野さん。落ち着きなさい。ね、落ち着いて、よく話し合おう。君が私のことを好きになってくれたというのは、とても嬉しい。本当だ、本当に嬉しい」
「あなたのことなんか、好きじゃないわ」西野がそっけなく首を振った。「あなたさえいなければ、彼はわたしのものになるんだもの」
色々あって交通事故になり、恭一郎と小梅は元に戻ります。
恭一郎が元に戻ったことに気がつかず、小梅の名前と生年月日を答えるところが良かったです。
父親と娘の関係は多少良くなり、ハッピーエンドでした。
↓続編『パパママムスメの10日間』はこちら!
↓ドラマ版はこちら!
星とともに時を超えて
| 作品タイトル/著者 | 簡単なあらすじ | 収録書籍/ソフト |
| 『星とともに時を超えて』 著者:樹川さとみ | 刑事と相棒♀が窓から落ちて入れ替わる。 | 集英社 スーパーファンタジー文庫 『星とともに時を超えて』 |
※本項目の画像は、全て上記作品からの出典です。
宇宙連邦で刑事をしているフェルナンは、相棒のユージーンを殺されて以来、ずっと犯人を追い続けていた。
ある日、フェルナンの元にやってきた相棒は、ディ・カルドゥ星人のエリート少女・オルーヴァだった。
二人は性格の違いから対立しながら捜査を進めていたのだが、その途中で窓から転落して入れ替わってしまう。
オチだけの入れ替わりというか未完で、入れ替わってから物語終了まで10ページもありません。
二人が入れ替わったのは、オルーヴァの共感能力のせいらしいです。
↓フェルナン(身体はオルーヴァ)が入れ替わりに気がつかずに動いたり、喋ったりするのがおいしかったです。
特に、周囲から見たら「オルーヴァが自分を探している」ように見えるのが興奮します。
視界がどこか変だ。
どうにも説明しようのない見たこともないような「色」が見える。
あんまりあわてて走ろうとすると、バランスをくずして転びそうになる。
「あ、ヨウ……!あの警部補どこに行ったか知らないか?」
「あの……って、どの警部補?」
ヨウも眼を丸くしている。おとなしくベッドで寝ていなさいなどと余計なことを言われる前に、フェルナンはまくしてた。
「どれも糞もねえよ、あのお偉いキャリア様のフォンツ警部補だよ。ふざけてるのか?それともホントにどこにいるのか知らないのか?」
「え……っ!?」
「……?なんだよ、皆してみょーな顔しやがって。おれの顔になんかついてるか!?」
ざわざわ、さわさわと小声でささやきあう刑事たち。
フェルナン(身体はオルーヴァ)の様子をおかしがった周囲が、フェルナンにしかわからない質問をして入れ替わりに気がついてくれます。
↓鏡を見たり、オルーヴァ(身体はフェルナン)に会ったりするシーンもおいしいです。
「その――すっごく言いにくいことなんだけど……あなた、自分の服とか、ちゃんと確かめた?」
何を言って――と言いかけたフェルナンは、自分の体を見下ろして愕然とした。
今日の朝まで着ていた服ではない。
「ボス……っ!ここにおれが来て――」
と叫んだ言葉は絶句に変わった。
そこには。
びっくりしたように自分を見るハウエルと、そして。
フェルナン自身が立っていた。
今回は、小説の男女入れ替わりを10作品紹介しました。
読んでいただいてありがとうございました!





























